うつ病が薬物療法で治らない例(B)2005年09月29日 14:02

書籍紹介「医者にうつは治せない」(3)=薬物療法で治らない例(B)

 書籍紹介「医者にうつは治せない」織田淳太朗、光文社新書

 著者自身が、うつ病になり薬物療法を受けたが、効果に疑問を持ったこと、入院中に知った薬物療法の弊害、治らない患者、自殺していった知人をみて、薬物のみによるうつ病の治療を批判している。
 薬物療法だけでは治らなかった例がいくつか紹介されている。こういうことは、医者主導のうつ病、自殺防止活動で紹介されることは少ない。病気ならば、療法によって、人によって、効く、効かないがある。治療法は、どれも(私たちの療法も)絶対ではないので、しばらく(6カ月~1年か?)治療して治らない場合、効果なしとして、他の療法を試みるべきだろう。
  • 薬物療法で治らない事例B
     長瀬氏の場合。札幌の建設会社の管理職になったが、部下同士が反目し合って、上司としてその仲介に入っているうちに追い詰められた気分になった。トップに管理職をおろしてくれるように頼んだが、受け容れられず、続けているうちにひどくなり、平成11年5月、近所の総合病院の精神科を受診。うつ病と診断された。1か月休職して自宅静養して、抗うつ薬を処方された。それでも、症状に改善がみられなかった。
     「薬はどんどん増えていきました。寝る前の睡眠薬を除くと、薬は朝、昼、晩と一日三回服用してましたが、最初は二錠だったのが、最後のほうには一回の服用だけでもてのひらにのりきらないぐらいになりましたから。一回の服用で七、八錠くらいはあったと思います。それでも症状はほとんど好転しませんでした。」
     会社をやめたいと訴えたが、主治医は職場にとどまることをすすめた。職場復帰したが、部署は変わらなかった。ある夜、深夜の2時頃、妻に「一人になってくる」という簡単な手紙を残して、車でづかけた。ふるさとの苫小牧の海を見て、気分が落ち着き、翌朝、病院に直行した。医師は、再度自宅療養をすすめた。1か月後に、復帰した。だが、嘔吐を繰り返すようになった。眠気も強く起きた。ある時、車を運転中に、眠って、事故を起こした。周囲から、「眠気や吐気は薬のせいじゃないか?」というが、主治医からは副作用については聞いていなかった。
     「私も『そうかな』と思い始めました。それに、薬を飲んでも症状が良くならない。別の医者に診てもらうしかなかったんです。」
     平成十二年二月、長瀬は市立三笠総合病院の精神科にかかった。ここに4カ月入院した。ここでは、薬の量が減らされ、ソフトボール療法が行われた。症状は安定したが、その後も、市内の病院を転々とした。平成17年6月、再び、三笠総合病院に3度目の入院。徐々に好転している。
    (以上、参照書籍の、23~44頁)
 市立三笠総合病院では、薬物療法のほかに、患者やスタッフがソフトボールを行うという療法を行っている。症状の好転がみられて、幸いである。ここに来る以前の長い薬物療法は、治らない事例である。薬物療法が効かない患者がいる。こういう患者には、他の心理療法を提供すべきである。病院が、うつ病に効果のある(カウンセリングならどれでもというわけではない)心理療法を提供できるカウンセラーとの連携の仕組みを作るべきである。病院、医者の収入を優先しては、患者を苦しめる。そのうち、自殺される。日本で自殺が減少しないのは、いつかでも、薬物療法に釘付けにする医療体制にも、その一つの原因がありそうである。

(関連記事/薬物療法は再発が多い)

プラシーボからみた心理療法の長所2005年09月28日 21:12

 薬物(がん、心臓病、その他身体の病気の治療に使われる薬すべて)が、人に効くのに、心理が強く影響する。信じる患者は、にせの薬物(プラシーボ)を与えても、治ることがある。プラシーボの研究をしている広瀬氏は、うつ病、自殺念慮を持つ患者に処方される「抗うつ剤」が効くのは、プラシーボ効果であるらしいとの最近の研究動向を紹介している。
 抗うつ薬は、患者が信じないと、効きにくい。逆のプラシーボ効果がある。患者が治らないで長引くと、暴言を言ったり軽蔑したりする医者がいる。そんな医者や、金もうけ主義が見えたり、薬づけとみられるような医者は、精神科医としては失格である。患者が、医者に、不信感をいだくので、薬物の効果がなくなるという逆のプラシーボ効果(マイナスのプラシーボ効果、ノーシーボ効果)があるためである。薬物療法の副作用のみを与えて、完治させないおそれがある。
 では、心理療法はどうか。心理療法は、薬を与えないのに、患者が治る。笑いでも、カウンセラーの言葉の助言でも、患者の身体内に生理的変化が起きる、免疫が活性化する。セロトニン神経が活性化する。広瀬氏は、心の病気の「心理療法」もプラシーボ効果で、治療に役立つという。
     「結局のところ、心理療法はプラシーボ効果に依拠している。」
     「これまでの議論の展開をふまえて、著者は、心理療法をプラシーボの一つのかたちであると考えたい。心理療法は心の病を治す医療的な価値を十分に備えた療法である。著者がこれをプラシーボであるといったとしても、心理療法をおとしめようという意図はまったくない。むしろ逆である。心理療法こそ、プラシーボ効果を最も有効に利用したわたしたちの叡智の結果ともいうべきものである。プラシーボという言葉につきまとう、うさんくささを払拭すべきだと思う。プラシーボ効果に対する偏見を捨て去るべきだろう。プラシーボ効果は、わたしたち人類が、長い進化の過程のなかで獲得してきた大きな可能性であり、潜在能力であることを知るべき時なのではないだろうか。これまでにも話してきたように、この大きな可能性を秘めた潜在能力についての科学的研究は、やっと始まったばかりだ。プラシーボ効果について、もっと多くのことが解明され、その成果が積極的に利用されるようになることを望みたい。」
    (『心の潜在力・プラシーボ効果』(朝日新聞社 朝日選書 広瀬弘忠著、176頁)
 そうすると、心理療法も、患者がカウンセラーやカウンセリング技法を信じないと、治りにくいという。カウンセラーが、自分の力量に不安がある、というのでは困る。自信をもっていないカウンセラーは、患者の質問に、自信をもって答えないし、カウンセラーの指導態度がひかえめであり、カウンセリング力量は、カウンセラーの態度、言葉で患者に微妙に伝わる。患者の信頼をえられないカウンセラーでは、心理療法も効かない。そのことを次にご紹介しよう。

プラシーボからみた薬物療法の限界(1)2005年09月28日 19:37

プラシーボからみた薬物療法の限界(1)

 日本は、自殺が多い。この7年、毎年3万人以上の人が、自殺している。 自殺した人、自殺未遂の人に、薬物療法を受けていた人も多い。薬物療法には、限界がある。  浜松医科大学名誉教授の高田明和氏が、抗うつ薬はプラシーボということに言及している。
     「じつは精神の薬の場合、その効果の多くがプラシーボ(偽薬)効果だという説もあります。新しい薬が効くといわれると、皆その薬に飛びついて、思い込みから一定程度の効果がみられるようですが、そのうちに「効果がみられない、副作用が大きい」という風評が伝わると、急にその薬が効かないと訴える患者が激増します。有名なプロザックですら、偽薬と効果が違わないという疑いが出ています。  これらの情報に興味のある方は、『心の潜在力・プラシーボ効果』(朝日新聞社 朝日選書 広瀬弘忠著)を参照してください。」(『うつ病を自分で治す実践ノート』高田明和、リヨン社、127頁)
 その広瀬氏の言葉は、次のようである。
    「抗うつ剤のような薬では、薬効そのものよりもプラシーボ効果の方が大きい場合があることがわかってきた。」
     「うつ病患者を被験者にした二重盲検による臨床試験で優れた成果が報告されて、その有効性が科学的に認められていた」その薬MK869が、発売後2か月で、発売したメルク社は「宣伝をやめてしまった。そしてこの抗うつ剤の薬効と見られていたものは、実はプラシーボ効果であった可能性があるという記者発表をおこなったのである。」
     「最近では、世界的な評価を得ている抗うつ剤の<プロザック>でさえ、その効果はプラシーボと比べて、統計的には、有意な差がないのではないかという研究発表もおこなわれて、研究者のあいだにかなりの混乱が見られる。そのような混乱の原因の一つは、精神病の治療薬の薬効判定の場合には、たとえば、血液検査」やX線撮影のような客観的な検査方法がなく、もっぱら患者の主観的な報告に頼っているという、薬効判定の方法上の問題がある。」
    『心の潜在力・プラシーボ効果』(朝日新聞社 朝日選書 広瀬弘忠著、43-44頁)
 抗うつ薬が効くか、効かないかは、その患者の心理が大きく影響するということである。患者が薬物療法を信じれば、食塩や砂糖しかはいっていない薬物まがい物(プラシーボ)でも、うつ病が治ることがあるという。抗うつ薬の作用は、プラシーボ効果である可能性が強いというわけである。
 だから、薬物療法を始めて、3~6か月もたつと、患者は、その薬物療法に疑問を持つようになるだろう。そうすると、本当に治りにくくなる。信じられなくなり、絶望する。それが、うつ病を悪化させる。
 中には、1年、2年の薬物療法で、うつ病が治ったという患者もいるのだが、それは、薬物療法の効果ではなくて、患者が、その期間中に、何か心理的にプラス思考になる出来事があったり、本を読んだり、助言を受けたりしたことによる効果である可能性もあるわけである。
 このような薬物療法である可能性が高いのに、自殺防止の対策に、うつ病の人が発見されたら、医者にまわして薬物療法をすすめるという仕組み(東北地方の対策はそうなっている)がモデルになっているのは、きわめて問題のある対策ではないだろうか。東北地方でも、薬物療法を受けた患者が、どの程度、完治したか、再発していないか、などの追跡調査をしてほしい。(他の研究では、治癒率は低く、再発は多い)
 薬物療法以外の治療法を開発しないと、うつ病が薬物療法で治らない患者は、自殺するおそれがある。薬物療法中心の対策では、また、10年遅れてしまうだろう。うつ病、自殺は、心理的影響、社会問題で発病し、心理的、社会的な支援で治ることが多い。そちらの対策を怠らないようにしてほしい。
 うつ病、不安障害からも、不登校やニートが起きる。その原因でなくても、長引く不登校、ニートからも、うつ病が起きるリスクが高い。そこから、自殺、家庭内暴力が起きることもある。うつ病患者の家族、不登校、ニートの人をかかえた家族も、結集して、解決、完治への対策に向けて自らも行動を起こして欲しい。国や県も、動きだしたが、薬物療法への期待、社会の仕組みの改善の方向が模索されていて、時間がかかりそうである。今、不登校、ニートになっている原因が、うつ病や不安障害によるものであれば、もはや、薬物療法では効かないかもしれないし、過労を減らす、借金問題の支援など社会の仕組みの改善では、不登校、ニートの方の「病気」は治らないものが多い。長引くうつ病、重いうつ病、不安障害などの患者を心理療法で治す対策をすすめることに、協力する行動を起こしていただきたい。
 プラシーボ効果は、まだ、うつ病、自殺問題の対策に影響するヒントがある。いつか、別な記事でも、考えてみたい。