いじめで担任教諭らの過失を認定2005年09月30日 07:17

 子どもがいじめで自殺したとして訴えた裁判で、担任教諭らの過失を認定した。
 報道によれば、いじめに関する訴訟で、9月29日、宇都宮地裁の判決は、学校側に責任ありとして、240万円の賠償を命じた。栃木県鹿沼市で1999年11月、市立中3年のTU君(当時15歳)が自殺したのは、学校でのいじめが原因だったとして、TU君の両親が市と県、当時の同級生2人とその両親を相手取り、総額1億1032万円の損害賠償を求めた。
 学校がいじめを防ぐ適切な措置をとらなかったなどとして、TU君の肉体的・精神的苦痛に対する慰謝料などの支払いを被告に命じた。しかし、「いじめから自殺までに5か月以上の期間があった」ことなどから、いじめと自殺の因果関係については認めなかった。
 判決によると、同級生の男子生徒2人はTU君に「プロレスごっこ」の相手をさせたり、教室でズボンや下着を脱がせたりした。TU君は99年11月1日から不登校になり、同月26日に自宅で首つり自殺しているのが見つかった。

外傷後ストレス障害(PTSD)やうつ病は事件の相当後に自殺も

 判決文を詳細に読んでいないからわからないが「いじめから自殺までに5か月以上の期間があった」から、「いじめと自殺の因果関係については認めなかった」というのは、おかしい場合もある。
 いじめの後に、PTSDやうつ病という心の病気を発症すれば、自殺するのは、6カ月後、1年後に自殺するということが起きる。いじめによって、PTSDかうつ病を発症したのであれば、いじめと自殺は因果関係がある。裁判は、そこを十分に検討したのか。

PTSD

 大きな事件、事故に巻き込まれて、瀕死の目にあった人が、その出来事が終わってから、精神的に苦しみ、身体にも症状が出て苦しむことがある。交通事故にあうとか、幼い頃に遭遇した個人的な恐怖体験もそうであるが、大規模に発病しているのでは、地下鉄サリン事件、和歌山カレー殺人事件、阪神淡路大震災、ハワイ原子力潜水艦沈没事件、ベトナム戦争の被害者、帰還兵などに多くの症例がある。
 PTSDについて、次の説明がある。いじめも、本人にとって、これに該当するほどのものがあるだろう。
    「患者は、以下の2つが共に認められる外傷的な出来事に暴露されたことがある。
    • (A)実際にまたは危うく死ぬまたは重傷を負うような出来事を、1度または数度、または自分または他人の身体の保全に迫る危険を、患者が体験し、目撃し、または直面した。
    • (B)患者の反応は強い恐怖、無力感または戦慄に関するものである。」
     「またPTSDの症状の特徴は、

    (A)本人が暴露された外傷体験と類似した体験からの回避や外傷体験そのものの想起回避などの回避行動と
    (B)侵入的回想(フラッシュバック)、及び
    (C)再三の夢での外傷再体験、

    という現象にあるが、特に(B)(C)を特異的なものとしている。」
 次のような態度、行動の幾つかが起こり、重要な活動への無関心、不参加などから、社会生活に不自由をきたす。
  • その出来事と関連した思考、会話を避けようと努力する。
  • 出来事を想起させる活動、場所、人物を避けようと努力する。
  • その出来事の重要な側面を想起できない。
  • 重要な活動への無関心、不参加。
  • 孤立、疎遠の感覚。
  • 感情の範囲の縮小(愛の感情を持つことができない、など)
  • 入眠困難、睡眠維持困難。
  • 怒りやすい、易刺激性。
  • 集中困難。
  • 過度の警戒心。過剰な驚愕反応。
 いじめられてから、相手にあうたびに、その出来事を想起し、苦しみ、PTSDとなっていた可能性もある。また、このようなつらい状況が持続すると、「うつ病」を併発することがある。そうすると、当然、自殺の危険性がある。いじめは、PTSDを経過することなく、すぐ「うつ病」を発症することも多い。ライフ・イベントがあって、うつ病になることが知られているが、うつ病になってもすぐ自殺せず、半年後に自殺することもある。たとえば、過重労働で、うつ病になり、休職して、うつ病が治らず、6カ月後に自殺した場合、過重労働は、半年前にストップしたが、その過重労働と自殺の因果関係がある。過重労働がうつ病をひきおこし、そのうつ病が自殺させる。心の病気の原因と自殺の時期の間には、半年以上の場合もある。だから、TU君の場合も、いじめの時期と自殺の時期が5か月あっても、それだけで因果関係がないとはいえないかもしれない。
 いじめは、PTSDや、うつ病を発症させ、自殺に至ることが多いのは、多くの事件でわかってきている。いじめをしてはならない。いじめをみつけたら、相当長い間、被害者を観察して、心のケアをしなければならない。
 ご両親は、控訴する方針だという。いじめによる、うつ病、不登校、自殺、ニート化が多い。いじめはなくさなければならない。控訴審では、上記のような心の病気、自殺は、長い期間の後にも起きるのだから、いじめの後のTU君の様子の変化(しばらくして心の病気を発病したか)やほかに自殺する要因があったのか、十分検討すべきである。

書籍「自殺は予防できる」2005年09月30日 09:01

「自殺は予防できる」本橋豊・渡邉直樹編著、すぴか書房、2005/10。
 「自殺は予防できる」という本が出版された。自殺率が最悪の東北3県、秋田、青森、岩手の自殺予防対策が紹介されている。特に秋田県では、6つの町で、モデル事業にとりくんできたことから、自殺率が減少している。他の県でも、秋田モデルを注目している。それが、まとめられたので、今後、他の県が、自殺防止対策をとるのに、大変参考になる本である。
 ただし、この本でも、書いてあるが、そのモデル事業を推進していて、薬物療法で治療中の患者が自殺した例があるという。秋田モデルでは、治療は医者にまわすことになっていて、うつ病の治療が得意ではない医者に研修を行っているという。だが、得意でない医者が片手間で、薬物療法を行うと、遷延化させることが起きるおそれがある。うつ病の患者は自殺念慮を持つ人が多い。最初の3カ月が決めてであると思われる。長引くと、不安を持つ、不安を持つと、治らない。また、ストレスが持続する場合も、薬物療法の効き目が出にくい。副作用のために、学業や仕事に支障が起こり、かえって悪化することもある。薬物療法は、再発が多い、薬物療法を行っていても自殺する、人によって自殺念慮を高める副作用があるなど、その限界が報告されだした。
 秋田モデルは、うつ病への予防対策は、十分であるようだが、かかってしまった「うつ病」の治療対策の体制は、別な方面の対策が必要だろう。さもないと、自殺が、7割程度まで減少させられて、それ以上は減少させることができないことが起きるだろう。東北3県は、臨床心理士などのカウンセラーが少ないので、医者の薬物療法に頼る治療体勢になっているが、他の県では、カウンセラーによる心理療法を治療対策におりこむのがいいだろう。東北3県でも、うつ病の予防対策を推進してきたのは、保健師、看護師のようである。医者ではない。自殺防止のための「うつ病」の治療対策としては、すぐ、薬物投与をするのではなく、心理的なサポート、心理的な療法の推進が重要であろう。

書籍紹介「医者にうつは治せない」(4)2005年09月30日 14:58

薬物療法で治らない例(C,D,E)

 書籍紹介「医者にうつは治せない」織田淳太朗、光文社新書

 著者自身が、うつ病になり薬物療法を受けたが、効果に疑問を持ったこと、入院中に知った薬物療法の弊害、治らない患者、自殺していった知人をみて、薬物のみによるうつ病の治療を批判している。
 薬物療法だけでは治らなかった例がいくつか紹介されている。こういう治らない事例は、医者主導の薬物療法を中心としたうつ病治療、自殺防止活動で紹介されることは少ないから、私もあえてご紹介している。自殺防止の対策の抜けがないようにしていただきたいからである。さもないと、自殺減少が10年、遅れてしまう。
  • 薬物療法で治らない事例C
     C子さんの場合。数年前、パソコンを買ってから、その依存症になった。パソコンに向かってばかりで、掃除、洗濯をしない、食事も満足にとらない。2人のこどもの世話は、みかねた母がやった。 1年後、総合病院の精神科にいくと、うつ病の診断で、3か月入院した。その後も、投薬治療を受けたが治らず、希死念慮に襲われ、睡眠薬に依存。ある日、睡眠薬を多量に飲んで、救急車で運ばれて、一命をとりとめた。以来、通院先の病院から投薬を拒否され、他の病院でも拒否された。その状況から、インターネットの出会い系サイトで知り合った多数の男性と肉体関係を重ねた。知人の紹介で、札幌太田病院に入院して、内観療法を受けた。著者が、インタビューしたのは、半年後で、症状が落ち着いていた。(91~95頁)
  • 薬物療法で治らない事例D
     D子さんの場合。そううつ病がなおらない。4件目の病院では「薬の強い副作用のため、運動機能が麻痺して動けなくなったこともあったという。」
    5件目の札幌太田病院に入院して、内観法を受けた。20年も前に受けた夫の浮気や暴力を受けていたことを思い出して、猛烈な怒りをおぼえた。ためこんでいた怒りを吐き出すと、樂になった。著者は、その頃、入院中のD子さんにインタビューした。(90~91頁)
  • 薬物療法で治らない事例E
     Eさんの場合。貧困な家庭に生まれたが、長じて会社を起こして成功。20数億円の資産を築いた。会社をたたんで、ハワイに移住し、ホノルルに自宅、マウイ島に別荘を構えて、悠悠自適の生活にはいった。二年後のある朝、起き上がれない。「死にたい」という気持ちに襲われた。病院にいって、薬物療法を受けたが、改善せず、自殺念慮とのたたかいが続いた。ある人の紹介で、催眠療法を行うカウンセリング所に行った。しばらくカウンセリングを続けるうちに、Eさんは、抑圧していた感情に気がついた。そのうち、仏教書にひかれて読んだ。比叡山にこもって得度も受けた。このあたりで、Eさんのうつ病は治り、また別の会社を興した。(128~130頁)
 こんなに薬物療法で長期間、ふりまわされる悲惨な患者がいる。毎年、3万人以上の人が自殺するようになって、7年である。毎日、90人が自殺する。そんな中に、薬物療法で治らなかった人も多いはずである。タレントのMさん、国会議員のNさんも、薬物療法を受けていたのに、自殺した。いつ、身近な人がそうなるかもしれない。うつ病はありふれた病気だから。
 ここに、心理療法で成功しつつある例ばかり紹介しているが、心理療法でも効果がない例もあることは、この著書でもふれている。どの心理療法でも、うつ病のすべての例に効果があるという完全な療法はない。ここでは、長く投薬されるうつ病患者が治らない、治らないのに、投薬され続ける例があるということを理解しておきたい。薬物療法では、治る人もいるが、治らず薬づけになって仕事にさしつかえ、非行に走り、自殺念慮が起き、実際、自殺未遂、自殺実行にいたることがあることを知っておきたい。これらの事例では、長期間の薬物療法の後に、心理療法を受けているが、もう少し早く、心理療法を試みるべきである。ある期間、薬物療法が効果がない場合、薬物療法の医者を転々とするのではなくて、心理療法のカウンセリングを試みるのがよいことがわかる。
 自殺防止の対策のうち、「うつ病への予防」対策のほか、もう一つの重要な「うつ病治療の対策」には、薬物療法のほかに、効果がない場合、すみやかに、心理療法を受けることができる体制を作るべきである。5年も、10年も、薬物療法のみを受けて治らないような患者がかわいそうである。自分や自分の家族がそんな目にあったら、どんなにつらいことかわかるだろう。うつ病は、ライフイベント(人生上の種々の出来事)などで誰にでも起きる病気である。だが、薬物療法で治らないということが、どのご家族に起きるかもしれない。欧米で、対人関係療法や認知行動療法が、うつ病に効果があることがわかっている。これができるカウンセラーの育成を急ぐべきである。抗うつ薬の薬理は、完治ではなく、みせかけである。プラシーボ効果の疑いが出てきた。心理的ストレスでなったうつ病には、心理的療法がよい。心理療法を主とし、薬物療法を従とする逆がよいだろう。そのほうが副作用が少ない(心理療法の副作用もゼロではないが)。