抗うつ薬は完治させない2005年09月20日 09:02

 「医者は自殺を防止できない」という過激なタイトルで、日本の自殺問題深刻さを考えてみたい。

 地方の場合、自殺防止運動には、精神科医が重要な役割をになっている。だが、医者は、薬物療法を中心とした治療を行うので、それでは、自殺防止の恒久策とはならないということがわかってきた。
 薬物療法は、完治する療法ではなくて、対症療法にすぎない。抗うつ薬の薬理からも、それが裏づけられる。

薬物療法で治ったつもりでも、セロトニン神経は弱いまま

 うつ病の治療の中心は抗うつ薬である。中でも最近は、SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)やSNRI(セロトニン、ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)である。うつ病には、自殺念慮というやっかいな症状があるので、うつ病が完治しないと、自殺の危険性が常に伴う。抗うつ薬の効き方が、セロトニンやノルアドレナリンの「再取り込み阻害」という薬理作用から、完治のために作用するような薬ではないことろに問題がある。
 東邦大学医学部教授の有田秀穂氏は、次のようにいう。
     「SSRIの抑制作用により、余ったセロトニンはリサイクルに回らず、いつまでもセロトニン神経末端と標的神経とのあいだに、すなわちシナプス間隙に留まります。これはセロトニン神経が弱り、セロトニン分泌が悪いときには好都合です。十分な分泌量に達しないセロトニンを、見かけ上は多く分泌されたように、改善してくれるのです。薬を使い続ける限りは、脳内のセロトニン濃度を高く維持できます。ただし、セロトニン神経が発生するインパルス頻度は低いままであること、セロトニンの基礎分泌は低いままであること、を忘れないでください。
     重要なのは、弱ったセロトニン神経を根本からきたえ直す必要があるということ。そのためには、セロトニン神経がリズム運動で活性化されることをうまく活用すればよいのです。」(1)
 薬物療法で軽くしても、心理的ストレスが強くありつづければ(たとえば、過労、対人関係の悪化、同居しても家庭内で孤独、ライフイベントによる新しい役割、いじめられている、がんになっている)、うつ病は完治しにくい。休養して、一度、軽くなっても、 復帰した時、またストレスを受ければ再発する。セロトニン神経の本体の活性が低いままであるせいだろう。このような問題があるから、薬物療法だけでは、うつ病が完治せず、自殺がなくならないのだろう。

 リズム運動だけでは、重いうつ病者の臨床的治療には十分でないので、認知療法を併用するのが効果的である。なぜなら、うつ病になった人には、ある種の固定観念や認知のゆがみがあるので、それをカウンセリングで助言すると、完治が早くて、再発しにくい。脳内の神経伝達物質の点からいえば、うつ病は、セロトニン神経だけの問題ではなさそうであるから。抗うつ薬の服用を始めても、セロトニン神経への作用は開始しているのに、自殺念慮はすぐには、なくならないことから、「生きたい」という意欲は、セロトニン神経に調節されているが、別の脳内の器官の障害によるかもしれない。「自殺したい」というのは、認知のゆがみである。そこに働きかける「認知療法」を併用するのが安全であると思う。欧米では、抗うつ薬を使わずに、認知療法や対人関係療法だけで、うつ病を治すのも広く普及しているのであるから、その方向を検討すべきである。
 自殺防止の対策として、うつ病の人がみつかったら、医者を紹介するという対策が東北地方を中心としたモデルになっていて、本やマスコミで紹介されるが、地方には、認知療法ができるカウンセラーがいないという特殊事情であることを考えて、他の県や大都市などは、カウンセラー(および、同様のカウンセリングのできる保健師、看護師など)が介入する治療体勢を構築すのがよいのではないか。東北各県も、その対策も加えたらいいだろう。
 医者は、心理療法を知らず、薬物療法絶対の治療をする人が多い。その薬物療法に弊害や限界が報告されてきた。うつ病を完治させる、という問題の根本対策をとらないと、自殺の減少は、あるレベルで限界に達する。
    (注)
    • (1)有田秀穂氏(東邦大学教授)「セロトニン欠乏脳」NHK出版、119頁。
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