高校の保健体育の授業、うつ病のこと2022年10月13日 08:16

NHKラジオで、高校の保健体育の授業で「精神疾患」の教育が始まったことを話題にしていました。

マインドフルネス心理療法SIMTは、あきらかに、うつ病の予防や、難治性うつ病の治療法の一つです。授業で教えていただきたいものです。

埼玉県内の高校には、1回講義を無料で開催させていただきます。

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うつ・自殺の背景にある問題2005年06月20日 08:52

 朝日新聞の連載記事「死ぬな! 自殺3万人時代に」が、10日に終わったが、19日、「読者の投書から」が掲載された。
 一方、同日「自殺予防 44都道府県市が施策」の記事が掲載された。
 この中で、他の国では「うつ病対策はごく一部」として、いかにも、うつ病対策だけではだめだというような論調のコメントがある。今は、時間がないので、詳しくは、論じないが、このようなことをいう人は誤解している。種々の出来事、原因、社会の仕組み、エゴイズムから、うつ病、自殺がおきるから、そのような背景までも視野に入れて対策をとれ、というのが、「うつ病対策」なのである。これまで(今なお)は、精神科医中心に、「うつ病は必ず治る。医者に行け」という。これだけではだめだ、もっと、広範なうつ病対策が必要である、というのが、「うつ病対策」である。薬物療法だけでは不十分なうつ病・自殺にどう対策をとるのか、である。

 「読者の投書から」の記事では、読者の体験が掲載されているが、ここでも、薬物療法だけでは不十分だということをみたい。
  • 会社員女性33歳、2年近く精神科に通ったあげく、自殺未遂2回。この人はこういう。
    「だから、社会で死のうとする前に精神科へ」と決まり文句のように言われるのが気になる」
    「単純に「病院へ」と促しても、「なんだこの程度か」となり、治療は進まないでしょう。」

    (管理者=精神科医での相談体制も重要だ。短い診療で、薬物だけを投与して終わりというのではいけない。同じ病院に、新設の「医療心理士」がいて、時間をかけて、うつの背景の把握、心理的なカウンセリングを併用すれば、改善されるだろうか。そのカウンセリングの力量が問題となる。私はカウンセリングを行っているが、初回は、2時間かけて、背景を聞き、今後のカウンセリング方針を説明するのに、2度とこない人もいる。カウンセリングを継続すれば、治る可能性があるのに、動機づけがむつかしい。)
  • 会社員男性、24歳、借金で自殺決意。(この時、うつになっている)。母からの電話で中止、母が返済してくれた。
    (管理者=借金苦による「うつ病」は、薬物療法だけでは治らない。こういう場合には、うつになる前に、あるいはなってから、「借金苦」について相談を受けるところに行って、相談する。そういう仕組みが必要である。このケースは、最初から、母に相談すべきであった。対人関係療法では、うつ病になる人には、家族(重要な他者)に相談しない、会話しない場合があるという。家族との会話があれば、家族が気がつくことがある。こういう場合、カウンセリングは家族との関係を修復する。この場合、家族が肩代わりしたことで解決できたが、家族でも返済できない状況では、うつ病が治らない。そうすると、もっと、借金問題を専門的に助言してくれるところが必要である。そういう問題の専門家と、そして、うつ病の病理についてはその専門家も同時にケアするという自殺予防の総合センターのような組織が欲しい。両方、同時並行でケアしないと、途中で、自殺されるおそれがある。)
  • 主婦、44歳。多重債務者の心のケアのボランティアをしている。自分がそういう悩みから、リストカットを繰り返していた。ボランティアの支援を受けて立ち直ったのがきっかけ。 ところが、昨年夏、自分の母が自殺した。年金を担保に借金していた。それを知り、法的手続きを進めていた矢先だった。「借金苦などで死ぬ必要はないと、今後も訴えていくつもりです。」という。
    (管理者=まさに、これである。うつ病の病理のケアのない、ボランティア組織、福祉関連の組織ではうつ・自殺問題に弱い。借金苦の悩み相談のボランティアなのに、自分の母に自殺された。母は、うつ病になっていたと思われる。私が、同時にケアする仕組みを作らなければだめだというゆえんである。専門家やボランティアの個々人は、どちらか一つ(このケ-スは、借金問題は熟練、しかし、うつ病の病理に詳しくない)しか熟練しない。一つの組織で、種々の領域の専門家を結集するか、独立した組織が連携しあうネットワークを作り、必ず、すぐさま、うつ病病理の専門家、や組織にも連絡して、即座に並行ケアする仕組みが必要である。うつ病を考慮しない仕組みだけでは、こういう悲劇が起きる。いじめ問題も、いじめそのものの問題(学校、父兄などとの交渉、教師の教育の必要性を訴える、そういう対外的な交渉に得意な専門家)と、うつ病の病理のカウンセリングの専門家の両方が必要である。過労による問題は、法的な専門家とうつ病の専門家の両方が必要である。こういうところまで視野に入れて対策をとっていくのが「うつ病・自殺の対策」である。誤解しないでもらいたい。総合的な対策が「うつ病対策」である。)
  • 主婦、30歳。この春、父が自殺した。1週間前に、退職していた。
    (管理者=リストラでの不本意な退職であるのか、定年の円満退職なのか、文面では不明である。どちらも、起こりうる。家族の中で、親子、夫婦の間で、会話が少ないと、それだけでうつ病になることもあるが、他の出来事が主たる背景であっても、うつ病、自殺の兆候を見落とす。この方の場合、親子の不和ではないが、家族内で、会話がない、不和である、という家庭には、特に、うつ病、自殺の割合が高くなる。対人関係療法はそれをよく指摘している。不和の解決法も教える。薬物療法だけの強調ではいけない。一般の人に、うつ病、自殺の教育、啓蒙が重要だ。誰でも、うつ病、自殺はありえる。)
 私たちの組織には、病理のカウンセリングには詳しい人がいるが、種々の問題(教育、いじめ、医療、介護、借金、など)に詳しいメンバーがいない。そのような人の参加もほしいし、それがだめなら、地域の他の組織との連携をはかりたい。偏見や縄張り根性は捨てなければいけない。

うつ自殺予防策研究 厚労省2005年06月15日 07:39

うつ自殺予防策研究が厚労省によって開始

 厚生労働省がうつ病による自殺を減らすための初の大規模研究に着手すると報じられた。(朝日新聞、6月11日夕刊)

 厚労省の研究班が3月、うつ病による自殺予防について、各地の先駆的な取り組みや課題と評価を報告書にまとめた。その上で、二つの研究計画を提案した。今回の大規模研究では、自殺率20%削減の成果目標を設定する。
  • (1)「地域特性に応じた自殺予防地域介入研究」
  • (2)「うつによる自殺未遂者の再発防止研究」
 (1)「地域介入研究」では、自殺予防介入プログラムを行う地区(5カ所程度、7万5000人)と、通常の自殺予防策の地区(同)を比べ、06年度から3年半で効果的な方法を見いだす。

 (2)「再発防止研究」は、うつ病による自殺未遂で救急救命センターに搬送された人が対象。3年半でうつ病の再発を30%減らすのが目標だ。具体的には、救急部門と精神科の連携がとれた複数の医療機関に搬送されてきた1000人のうち、半数については通常の治療に加えて、電話やメールによる相談、ITの症状判定プログラムを使うなどで、うつ病の再発率や自殺未遂率などを比較する。
 この研究で、自殺率20%削減の成果目標を設定する。この程度の自殺は減少するのであろう。今、自殺を思っている人は、思いとどまって欲しい。この研究の成果が数年後に現れるはずだから。
 さて、この大規模研究の成果が現れても、2010年に、なお、2万2千人も自殺があると見込む。この研究には触れられていないが、医師による薬物療法の技術向上、うつ自殺対策専門に選ばれたカウンセラーの教育も早く開始すべきである。

相談員・カウンセラーが心を病む

 忙しくて、うつ自殺に興味のないカウンセラーも多いだろうから、カウンセリング手法の教育・向上は、医師・カウンセラー全部を対象と考える必要はないだろう。うつ自殺のカウンセリングは、難しくカウンセラー自身がストレスを受けて、心を病みかねない。クライアントの苦悩・感情に巻き込まれて、カウンセラーが感情的になる。感情は、心を病むもとである。「逆転移」がある。連載3回の「仙台いのちの電話の相談員」の写真の下に「自身も苦しむ相談員は、定期的に意見交換会を開き、互いにケアし合う」とある。
 いのちの電話相談員は常勤ではなく、月に何回かの応対をするのだが、それでも、自殺を考えている見知らぬ人との会話からは、ストレスを感じる。それによって、相談員の側が苦しむ。相談員になる人は、社会貢献の意欲がありやさしく誠実な人が多いであろう。だが、こういう傾向が、「うつ病」になりやすい。
 一般のカウンセラーや医師は、常勤である。うつ病のクライアント(患者)を毎日、数多く応対するので、かなりストレスを受けるだろう。通常の医者にもうつ自殺が多い。うつ病自殺の専門家であっても、自分自身が、それに陥ることもある。この問題の支援から離れていく人も多いであろう。(私もいつ撤退するかもしれないのだ)
 こういうことがあるので、むつかしそうに見える深刻な問題のカウンセラーになる人は限られる。私は、いくつかのカウンセリング組織を見ているが、「治す」カウンセリングができる人は、ごく少数である。  

医療の質・カウンセリング手法の向上、社会のエゴイズム改善も

 04年の自殺者数、3万2千人を、2010年に、2万2千人にする。厚生労働省の研究によって、6千人規模の自殺は防止できる。政治、政策としては、そこまでなのであろう。だが、あとの、2万2千人の自殺がある。大規模研究で用いられる手法は現行のものであろう。現行の医療・手法では救えないうつ自殺もあるだろう。さらに、うつ自殺を減少させるのは、薬物療法、心理療法、カウンセリングの質の向上が必要である。
 もう一つ。今朝、テレビで、中学生の自殺がいじめによるものであったというニュースが流れた。小学生、中学生、高校生、そして、大人にも、いじめがある。自分の好みでない人を集団でいじめる。いじめられた人は、その時、うつ自殺になったり、仕返しから犯罪(高校生の爆発物事件があった)におよんだりする。大人も自分の感情や欲望を抑制できない国民になっている。心の病気、うつ病、自殺という観点からの、うつ病・自殺防止のために、学校教育、社会教育が必要である。弱い人をうつ病・自殺に追い込まない組織を作り上げなかればならない。

 わかってはいるが、どうやるのか難しい。まず、自分のこと、自分の家庭を振りかえり、始めていけばよい。夫婦は互いに愛し、尊敬しているか。親子は会話しているか。兄弟の仲はよいか。嫁姑の仲はよいか。感情的になっていないか。いじめていないか。何が問題なのか。自分のこと、自分の家庭がうまくいかない人は、イライラしている。感情的になりやすい。外にはけぐちを求める。いじめ、非行・犯罪。そういう人は、人を信頼できない。親子でさえ、兄弟でさえ、対立・不和。まして、先生やカウンセラーのいうことなど信用できようか。大人の感情、エゴイズムが、子供に移転し学習される。悪循環がやまない。
 種々の領域にエゴイズムが蔓延している。「3つ子の魂 百まで」という。人の感情系の脳は、3歳までに大きく成長する。それから、小中校時代の家庭環境、社会環境が、その人の感情処理、ストレス対処能力に影響する。感情的な家庭、夫婦・兄弟が不和な家庭では、子供の心に悪く影響する。そこを変えていく努力をしなければ、社会全体がよくならない。自分の家庭がおかしくて、どうして、社会がよくなるといえようか。うつ病、自殺未遂の方の支援だけではなくて、予防的カウンセリングが必要である。これは「臨床」ではなく、予防である。別な手法も要求されるという。種々の領域で、種々の智慧が必要である。自分の経験した領域で、できることをやっていっていく。連載で、紹介された個人のボランティアがそうであろう。だが、それぞれの分野で、もっと多くの人ができるはずだ。自分は大丈夫だと、無視、傍観していると、周囲が崩壊して、周囲から自分の足場を侵食されるに違いない。自分は日本という場に住んでいる。その場の崩壊を無視・傍観していれば、子や孫の代になって、その犠牲になるかもしれない。他人事と思ってはいけない。
 自分、自分の家庭には緊張、対立、不和はないか。あきらめていないか。
 自分の組織には、いじめ、差別、偏見、不和、我利はないか。みないふりをしていないか。
 こういうところから、いじめ、うつ、自殺、非行・犯罪などが起きる。

 どうすれば改善できるか、努力しているか。

 厚生労働省の研究は始まったばかりだ。効果が現れるまでに数年かかる。ひとりひとりが、努力しないと、ごく近い人が、犠牲になる。