プラシーボからみた心理療法の長所2005年09月28日 21:12

 薬物(がん、心臓病、その他身体の病気の治療に使われる薬すべて)が、人に効くのに、心理が強く影響する。信じる患者は、にせの薬物(プラシーボ)を与えても、治ることがある。プラシーボの研究をしている広瀬氏は、うつ病、自殺念慮を持つ患者に処方される「抗うつ剤」が効くのは、プラシーボ効果であるらしいとの最近の研究動向を紹介している。
 抗うつ薬は、患者が信じないと、効きにくい。逆のプラシーボ効果がある。患者が治らないで長引くと、暴言を言ったり軽蔑したりする医者がいる。そんな医者や、金もうけ主義が見えたり、薬づけとみられるような医者は、精神科医としては失格である。患者が、医者に、不信感をいだくので、薬物の効果がなくなるという逆のプラシーボ効果(マイナスのプラシーボ効果、ノーシーボ効果)があるためである。薬物療法の副作用のみを与えて、完治させないおそれがある。
 では、心理療法はどうか。心理療法は、薬を与えないのに、患者が治る。笑いでも、カウンセラーの言葉の助言でも、患者の身体内に生理的変化が起きる、免疫が活性化する。セロトニン神経が活性化する。広瀬氏は、心の病気の「心理療法」もプラシーボ効果で、治療に役立つという。
     「結局のところ、心理療法はプラシーボ効果に依拠している。」
     「これまでの議論の展開をふまえて、著者は、心理療法をプラシーボの一つのかたちであると考えたい。心理療法は心の病を治す医療的な価値を十分に備えた療法である。著者がこれをプラシーボであるといったとしても、心理療法をおとしめようという意図はまったくない。むしろ逆である。心理療法こそ、プラシーボ効果を最も有効に利用したわたしたちの叡智の結果ともいうべきものである。プラシーボという言葉につきまとう、うさんくささを払拭すべきだと思う。プラシーボ効果に対する偏見を捨て去るべきだろう。プラシーボ効果は、わたしたち人類が、長い進化の過程のなかで獲得してきた大きな可能性であり、潜在能力であることを知るべき時なのではないだろうか。これまでにも話してきたように、この大きな可能性を秘めた潜在能力についての科学的研究は、やっと始まったばかりだ。プラシーボ効果について、もっと多くのことが解明され、その成果が積極的に利用されるようになることを望みたい。」
    (『心の潜在力・プラシーボ効果』(朝日新聞社 朝日選書 広瀬弘忠著、176頁)
 そうすると、心理療法も、患者がカウンセラーやカウンセリング技法を信じないと、治りにくいという。カウンセラーが、自分の力量に不安がある、というのでは困る。自信をもっていないカウンセラーは、患者の質問に、自信をもって答えないし、カウンセラーの指導態度がひかえめであり、カウンセリング力量は、カウンセラーの態度、言葉で患者に微妙に伝わる。患者の信頼をえられないカウンセラーでは、心理療法も効かない。そのことを次にご紹介しよう。

私たちの心理療法2005年09月27日 21:21

 別の記事に私どもの心理療法の独特の技法の概要をご紹介しました。これをご紹介したのは、日本では、新しいカウンセリング技法であり、ほかに文献がないからです。一般の認知行動療法で用いるカウンセリング技法をクライアントが実行できるようにするのに、効果的な役割をはたします。
 こういうふうに、瞑想(日本では、坐禅が似ています)を付加した認知行動療法は、欧米では、最も新しい技法として、適用が開始されています。日本では、一般の認知行動療法でさえ、駆使できるカウンセラーが少ない状況です。しかし、うつ病、自殺念慮、パニック障害などで苦しむ方が多い日本ですし、薬物療法では完治せず、遷延化し、再発し、自殺することが多いので、社会問題になっていますから、日本でも、こういう心理療法を適用しないといけないでしょう。私どもは、この新しい技法を用いて、うつ病、自殺念慮、パニック障害、対人恐怖、統合失調症などの方のカウンセリングを行っています。また、カウンセラーの育成を行います。
 臨床心理士をはじめ、看護師、保健師、リハビリ関連のかた、学校の教師、そして、不登校、がん患者、うつ病患者、自死遺児を支援するスタッフなど習得していただきたいです。
 この技法は、がん患者、リハビリ患者、糖尿病などの難治性の病気に伴う「うつ病」にも、効果があります。欧米でも、幅広い領域に適用されています。

私たちの心理療法(瞑想付加の認知行動療法)2005年09月27日 21:14

 私たちは、瞑想を中心にした心理療法(瞑想付加認知行動療法)を普及させています。
  「認知行動療法」には、行動的技法、認知的技法の2群の技法があります。認知的側面のゆがみから修正して、心の病気を治そうという認知的技法と、行動の側面のゆがみから治していこうとする行動的技法からなります。
 この心理療法(瞑想付加認知行動療法)には、「呼吸法、自己洞察法」の一群の技法が付加されています。
 カウンセラーは、クライアント(患者)の問題、症状、理解力、進度に応じて、適切な技法を選択して指導します。クライアントが実行できるように指導します。
 あらましをご紹介します。
ここには、この心理療法独自の「呼吸法、自己洞察法」技法をご紹介します。ここには、すべてに共通の技法と、うつ病、自殺念慮の技法の概要を記述します。

瞑想付加の認知行動療法の独特の技法(1)
<他の障害・問題に共通の基本的な瞑想技法>
技法B1
  • 呼吸法と基本的自己洞察法
    この療法の特徴ある技法のうち、基本的な技法。呼吸法、息を見る方法、数える法法などがある。ただ、意味なく実行するのではなくて、自分の心を洞察する手法を織り込むので、「自己洞察法」と総称する。
  • 技法B2
  • 行動中の自己洞察法(基本)
    この療法の特徴ある技法のうち、基本的な技法。上記は、坐って行うのが原則であるが、この技法は、動きまわっている時、自分の心を洞察する基本になる方法である。 行動中における心を洞察する手法を織り込むので、行動中の「自己洞察法」である。
  • 技法B3
  • 心理プロセスを洞察する技法
    思考・感情・身体反応・気分の心理プロセスを観察する。自分自身の心のプロセスを観察する。問題は、様々で、たとえば、対人関係がうまくいかない、何かを失ってつらい、不安がある、仕事がうまくいかない、スポーツなどで能力を発揮できない、とは、どういう心の様子か、苦に感じる心のステップを観察する。知識として理解するのではなく、観察する。
  • 技法B4
  • 好き嫌いの観念を克服する洞察法

    苦悩をまぎらそうとして、短絡的に自分の「好き」なものに向かうと、エゴイズム的な行動をとったり、不安障害になったり、依存症になったりするおそれがある。治すための治療法を嫌うことでも治らない。嫌悪について観察する。
    (A)嫌悪の思考を繰り返すこと。
    (B)治癒改善になる行動・行為までも嫌悪すること。
  • 技法B5
  • 自己・他者の観念を克服する洞察法

    自己嫌悪、他者嫌悪の観念を持つと、心の病気は治りにくいことを自ら観察する。
  • 技法B6
  • 過去未来の執着を離れる(脱過去未来)
    過去を振り返れば、それに苦悩の感情が伴うことを観察する。感情が起きるままの過去の観念であれば、それに現在の思考、行動が影響されることを観察する。過去の出来事の再評価が必要である。
    将来、未来を、否定的に評価すると、不安が起きることを観察する。その不安に負けて、行動をとらないと、問題は解決しないことを観察する。
  • 技法B7
  • 日常的気分と病理的気分を知る洞察

    自己管理できる気分(A,B)と、管理できない気分(C)があることを観察する。それぞれの対処法を学ぶ。 (A)日常的気分
    (B)感情に伴う気分
    (C)病理的気分
  • 技法B8
  • 苦悩・問題の執着を離れる自己洞察法
    この療法の特徴ある技法のうち、基本的な洞察法の一つ。苦悩の対象にしているものは、常にあるわけではないことを洞察する。苦悩、問題を相対化することにより、自動思考の停止をねらいとする。
  • 技法B9
  • 社会生活の中での常時・自己洞察(対人関係)
    「対人関係」に関連する思考、観念、衝動、コミュニケーション方法を、常に洞察している。
  • 技法B10
  • 自己存在の受容(脱偏見の自我像)
    心を病む人は、自己存在の不全感を持つことが多い。その観念についての真相を観察する。自己存在ではなく、観念や状況や症状、感情などを嫌悪、否定しているのであって、自己存在そのものではないことを観察する。
  • 技法B11
  • 執着(依存・回避・非機能的行動)から離れる自己洞察法

    感情、衝動、身体などに関する、根強くある固定観念、非機能的行動に対する従来の反応の仕方を変えるために、逃避、回避、まぎらし物、まぎらし行為、依存物に向かおうとする衝動を、ゆっくり呼吸をしながら、静観する訓練を行う。
  • 技法B12
  • 生活指導(心の病気、心身症全般)

     認知行動療法では、生活指導をする。この療法にある技法をからめての生活指導を行う。
     心の病気、心身症の人は病気を治すことが仕事であり、役割である。その役割にそった生活をする。休養が大切であるが、ある種の行動は、治療の効果がある。10カ条ある。
    • 病気の人は、治すことに効果あることをする。
    • 休職中の人は、治すことだけを行う。
    • 休職せず、治療する人は、仕事を軽くして、治療効果があるとされる生活スタイルをなるべくとりいれる。
  • 技法B13
  • 逆プロセスの洞察法(現観の実践)
    感情や落ち込み、身体反応などを感じた時、心のプロセスを観察することに慣れた人は、すみやかに執着から離れることができる。  このカウンセリングを受け始めた初期の段階では、苦悩する心のプロセスを十分に身体的に自覚できるようになるために、この「逆プロセスを観察」する技法を指導する。
  • 技法B14
  • その他の技法
     (技法B14-1)マインドフルネス瞑想法(ボディ・スキャン/ヨーガ瞑想等

     マインドフルネス瞑想法は、アメリカのマサチューセッツ大学医療センターのジョン・カバト・ツィン氏が開発したプログラムである。呼吸法をベースにしており、この療法も、うつ病に効果がある。
     ボディスキャン、静座瞑想、ハタヨーガ、歩行瞑想法が主な技法である。
     クライアントによって、これを行うことを助言してもよい。

  • <うつ病に特有の自己洞察法>
    技法B-M1
  • 「うつ病」の症状にある思考と気分(感覚)=初期
    面接において、そして、坐って、うつ病の症状を一つづつ洞察して、
    自動思考に該当するものと、思考ではないものとの違いを知る。
    そして、日常生活の場で、うつ病特有の否定的思考が起きた時に、
    早く気づいて、呼吸法や自己洞察法に切り替える。
    これにより、否定的自動思考に費やす時間が少なくなり、新たな陰性の
    感情が少なくなり、回復しやすい。
  • 技法B-M2
  • 毎回のカウンセリングのしかた

    毎回、面接時に「呼吸法と自己洞察法」の実践を行う
    • 呼吸法や自己洞察法、歩く時、食べる時の自己洞察法などを一緒に実行する。カウンセラーが毎回一緒に実行する(方法を説明しながら)ことで、その技法を会得してもらう。課題として与えることも、実際に行ってみる。方法を間違って会得している場合があるので、毎回、一緒に(説明しながら)行う。
    • 思考、感情、身体反応、衝動的行動なども、頭の理解だけではなくて、現実にクライアントの心の上に起きていることを観察する訓練を行う。いくつかの自己洞察法にかかわる技法があるので、そのクライアントの症状、問題にふさわしい技法を選択して実際に実行、観察してもらう。
    • 模擬訓練を多く含んで実行する。
  • 技法B-M3
  • 問題・進捗に応じたカウンセリング
    クライアントの問題、症状、進度、宿題の実施状況に応じて、技法を選択する。
    • はじめは、呼吸法を多く用いる
    • カウンセリングが進行するにつれ、自分の心の洞察を多く用いる。
      扱うテーマは、最悪の症状、重要な症状から軽い症状へと変えていく。
     この心理療法には、「呼吸法と自己洞察法」のあることが特徴であるが、この技法群には、詳細に見ると、その中でも、A)認知的自己洞察と、B)行動的自己洞察がある。 始めのうちは、Bから実行する。だんだん、A)を実行する。
     たとえば、初回には、ただ、行動そのものの修正の要素の強い、(技法B1)呼吸法や、(技法B12)生活指導などを指導して、自己洞察的な観点はあまり含めない。カウンセリングが進行するにつれて、独特の観念を洞察する他の技法を行う。
  • 技法B-M4
  • 「うつ病」からの復帰、完治に向けての自己洞察
     復帰が近づく間の心得も次の2つを基本にする。
    • (教育M10)行動・生活の心得(うつ病)
    • 「復帰・再発防止の10カ条」
     この期間のカウンセリングは、上記を確認すること、何か、不安、問題がないかを確認することである。安定している場合でも、2週に1回くらいのカウンセリングを継続して、見放していないこと、いつでも、相談できるという安心感をもっているのがよい。
     試験的勤務が始まったら、その期間中の心得を実行する。
  • 技法B-M5
  • 自殺行動の治療
  • 自殺念慮のあるクライアントに対して、自己洞察法を用いる。
  • クライアントに、自殺以外の他の方法や選択肢があることを協同で、考える。 自殺念慮は、うつ病の症状であって、おかしな人間に変わったわけではないこと、人格そのものが変わったものではない(そういう誤った観念が形成されている)ことを繰り返し説明する。
  • 以前にも、カウンセリングを受けたことがあるが、効果がなかったというクライアントに対しては、以前に認知行動療法を受けたことがあるかを質問し、「ない」といえば、「では、しばらく認知行動療法を試してください」という。これでしばらくクライアントは、自殺決行を猶予するであろう。
     以前にも、認知行動療法を受けたことがあるというクライアントならば、「瞑想中心の心理療法を受けたことがあるか」と質問して、「3か月、このカウンセリングを試してほしい」という。
  • セロトニン神経の生理学、呼吸によるセロトニン神経の活性化と抗うつ薬との違いを説明して、治るだろうという希望をもってもらう。
  • 課題は、実行可能なレベルのものを与える。達成不能な課題を与えると絶望を強める。
  • 自殺の危機を乗り越えたクライアントは、自動思考に挑戦し、他の選択肢を考える。
  • うつ病には、自殺という症状がついてまわるから、恒久的な自殺防止対策は、うつ病を完治させること、うつ病を再発させないことである。そのためには、一生薬物(抗うつ薬)を服用しつづけるというのでは、不十分と考える。抗うつ薬を服用している限り、心理的な負い目がストレスとなっており、いつまた、うつ病がひどくなるかもしれない。
     そこで、うつ病の種々の技法を用いて、うつ病の完治(抗うつ薬服用の完全停止)に向けて、カウンセリングを行い、クライアントが自立していくことができるように支援する。