残業が多いと自殺を考える2005年09月10日 05:40

残業が多いと自殺を考える

 残業が月に60時間を超すと、自殺を考えたことのある人の割合が急に増えるという。残業が多いと、うつ病になりやすく、自殺を考えるということである。
 社会経済生産性本部メンタル・ヘルス研究所が、行ったアンケート調査でわかった。「残業と心の健康の関係」などについてアンケートしたところ、残業が月に60時間を超すと、自殺を考えたことのある人の割合が急に増えるという結果なった。
 03年9月~05年3月に、15の企業・自治体で働く1万738人(平均年齢37.5歳)に対してアンケートした。
 残業が月に60時間未満までは、各時間帯で「死にたいと思うことがよくある」と答えた人が3.6~4.7%いたが、60~80時間未満は6%と急に上昇。80時間以上は7.1%となった。  ただし、「死にたいと思うことがよくある」と答えた人が、60時間未満でも、401人(60時間以上では74人)いたことから、同研究所は「60時間未満の人もメンタルヘルス対策の対象から漏れないように注意する必要がある」としている。 (同研究所、2005年版「産業人メンタルヘルス白書」、朝日新聞、8月29日)

 同白書が指摘しているのは、残業が増えると睡眠時間が減る傾向にあること、家族との関係が問題になること、自殺念慮が増えるということである。

 他の研究でも、睡眠障害のある人は、やがて「うつ病」を発病する割合が高いという。
 睡眠障害とうつ病には次のような関連があるという報告がある。
  • (A)ストレスは、HPA系の亢進と自律神経・青斑核の興奮を起こし、不眠をもたらす。HPA系とは、ストレスによって反応する自律神経やホルモンなどの系列で、視床下部→脳下垂体→副腎の系列である。
  • (B)うつ病になると睡眠障害の症状がある。
  • (C)睡眠障害が持続すると、「うつ病」になりやすい。
  • (D)学生時代に睡眠障害のある人は、ない人に比べて、中高年期に「うつ病」になるリスクが高い。
 残業が多くなると、睡眠不足から、うつ病になりやすいというのだが、心理的にも悩むことが多くなるだろう。疲れて帰るために、家族との対話が少なくなり、感情的になったり、家族の悩みを聞き、家族の悩みに共感できるような状況ではなくなって、家族の関係が悪化するであろう。残業時間に関係なく心理的ストレスだけでも、うつ病になり、自殺念慮が起きることがあるのだが、残業時間が多いと、疲労による影響と心理的ストレスによる影響とが重複して、うつ病になるリスクが高くなるであろう。
 過労による自殺が、労災として認定される案件も増加している。この場合にも、残業時間の多いことが指摘されている。残業が多いと、うつ病になり、適切な治療、カウンセリングを受けない場合には、うつ病の症状として自殺に至ることがある。本人も、上司も、家族も、うつ病だとは知らないことがある。うつ病についての知識を事業所や家庭で教育する仕組みを推進していくべきである。学校教育や地域社会での公的機関やNPOなどの活動ももっと推進される必要がある。事業所での取り組みが重要だが、厳しい経済情勢では、すべての事業所に理解があることを期待できるわけでもないので、本人と家族のストレス対処の理解、協力、実践も重要となる。
 職場によっては、残業や心理的ストレスがさけられないのであれば、本人や家族がストレスを理解し、対処法を心得ることで、ある程度は、うつ病、自殺を防止できることもある。これは、地域での社会教育としても重要である。職場が十分、支援しないのだから、地域が支援する。地域住民が、うつ病になったり、退職すれば、健康保険の財政を圧迫し、税収も減る。だから、地域の公的機関やNPOが、住民のメンタルヘルスに協力、支援することが重要となる。残業が多い人は、職場でも、家庭でも、うつ病、自殺問題を勉強するということが大切である。また、残業が多くなくても、仕事の困難さや対人関係などで悩んでも、うつ病になることがあるので、そのような悩みがちな人、家族も、同様に、うつ病、自殺には注意する必要がある。家族の一人がうつ病になったり、自殺したりすると、そのショックが大きく、他の家族の精神を不安定にして、心の病気や他の不幸を招くという連鎖も懸念される。家庭でも、うつ病、自殺の予防対策を考えるべきである。

睡眠不足からうつ病2005年06月30日 06:09

睡眠不足からうつ病

 うつ病と睡眠障害には密接な関連があります。
  • (A)ストレスは、HPA系の亢進と自律神経・青斑核の興奮を起こし、不眠をもたらす。
     HPA系は、視床下部→脳下垂体→副腎の系列である。次項に説明する。
  • (B)うつ病になると睡眠障害の症状がある。
  • (C)睡眠障害が持続すると、「うつ病」になりやすい。
  • (D)学生時代に睡眠障害のある人は、ない人に比べて、中高年期に「うつ病」になるリスクが高い。

(A)ストレス→HPA系の亢進と自律神経・青斑核の興奮・不眠

 ストレスは、HPA系の亢進と不眠の両方をひき起こす。ストレスを受けると、視床下部からCRH(副腎皮質刺激誘発ホルモン)の分泌が高まる。CRHは、脳下垂体に達して、ACTH(副腎皮質刺激ホルモン)が分泌される。ACTHが、副腎皮質に達するとコルチゾ-ルの分泌を促進する。コルチゾ-ルは、ストレスホルモンの代表である。各種の臓器や免疫系に種々の作用を起こす。これを、HPA系という。視床下部→脳下垂体→副腎の系列である。
 また、CRHは、交感神経を通して種々の臓器の情動性自律反応をひきおこす。CRHは延髄青斑核のノル・アドレナリン・ニューロンの活動を増加させ、脳の覚醒レベルを引き上げる。
 こうして、ストレスは、HPA系の亢進と不眠の両方をひき起こす。

(B)うつ病=睡眠障害の症状

 睡眠障害には、次のような種類がある。
  • 入眠障害=床についてから眠れない。
  • 中途覚醒と再入眠障害=寝ついても目覚めてしまい、眠りに戻ることが困難である。
  • 熟眠障害=起床時に眠りが浅いと感じる。
  • 早朝覚醒=ふだんの起床時刻よち2時間以上早く目覚め、それから眠れない。うつ病の患者は、睡眠障害のために、特に午前中に起床して活動することが困難になることが多い。
 うつ病の患者は、上記のどれか(重複も)が見られる。うつ病の症状は、午前中に強くあらわれる。 「うつ病=睡眠障害」が特徴である。


(C)睡眠障害→まもなく「うつ病」

 次に、(B)睡眠障害→まもなく「うつ病」である。
時折、不眠を訴えている人は、やがて、うつ病を発症することが多い。不眠ではあるがうつ病ではないものを1年後に再調査すると、うつ病の発症率が、不眠が無かった人の、39倍であったという報告がある(1)。このように、慢性の不眠は、うつ病に移行することがあるので、長引かせず、治療をすべきである。
 ストレスはHPA系の亢進と不眠をもたらすが、不眠はHPA系を刺激して、悪循環を起こす。HPA系の興奮が持続すると「うつ病」になる(2)。詳細は、参照文献をご覧下さい。
  • ストレス→HPA系の亢進と不眠
  • 不眠→HPA系を刺激する
    (注)
  • (1)「こころの科学」119号、日本評論社、2005/01、特別企画「不眠と睡眠の科学」55頁
  • (2)同上、57頁。

(D)若い時の睡眠障害→中高年期に「うつ病」

 アメリカの大学医学部の卒業生を長期間にわたって追跡調査したところ、学生時代に不眠にあった者では、なかった者に比べて、中年以降になっての、うつ病の発症率が2倍であった(1)。詳細は、参照文献をご覧下さい。
 若い時に睡眠障害があると、かなり後になって「うつ病」になりやすいということである。

 以上を総合すると、ストレスがコントロールされないと睡眠障害を起こし、睡眠障害が長引くと、うつ病になる危険が高まる。うつ病の他の症状が改善した後にも不眠が持続すると、うつ病の再発の危険が高まる。うつ病の再発に先駆けて不眠が出現する。不眠のうちに、治すことが大切である。
 過労になると、睡眠時間も短く、不規則になるので、睡眠障害をおこしやすいだろう。過労からの、うつ病、自殺も多い。
 今後も、睡眠障害とうつ病の関係の研究はすすむであろうが、関係が深いようである。
    参考書
  • (1)「こころの科学」119号、日本評論社、56頁。

研修医教える指導医も2割うつ状態2005年06月25日 08:27

研修医教える指導医も2割うつ状態

 病院で研修医を教える指導医の2割が「うつ状態」に陥っていることが、文部科学省の研究班の調査でわかった。同研究班の調査では、研修医の4人に1人がうつ状態に陥っていることがすでに明らかになっている。指導医が研修医に与える影響は大きく、研究班は「病院は指導医が余裕を持って気持ちよく指導できる態勢を整えるべきだ」としている。

指導医のうつ状態

 「週3日以上直接研修医を指導している」実質的な指導者175人をみると、うつ病になる可能性が高い「うつ状態」と判断された人が37人(21%)にのぼった。

 要因では、対人関係や仕事の質よりも「仕事量が多い」ことをストレスに感じている人が多かった。実際、1週間の平均勤務時間は75.7時間と多い。一方で指導医の仕事の達成感は高く、「疲れてはいるがやりがいは感じており、熱意に頼っているのが現状」とみる。

研修医のうつ状態

 同研究班が03、04年度に研修医を対象に行った調査では、初期研修開始後にうつ状態になった人が、1~2カ月後の時点で約25%いたという。  研究班では「病院側は指導を業務としてカウントし、その分診療の負担を減らすなどすべきだ。指導医のストレスが減れば研修医も精神面が安定し、ひいては良い医療の提供につながる」としている。 (朝日新聞 6/21/2005 夕刊)


 指導医は医者を教育する医者である。病気について専門家中の専門家であるのに、うつ病になりかけている。ここに、うつ病、自殺問題の深刻さがある。04年には79人の医者が自殺した。うつ病の専門家であってほしい医者が自殺する。
 指導医がいる病院は大きい病院であろう。そこには、うつ病に詳しい医者はいないのか。内科医でもいい、心療内科医でもいい、精神科医でもいい。種々の身体の病気に、うつ病が並存する。身体の病気と思われるのが、実はうつ病であったということも多い(うつ病には、自律神経失調症状のような身体症状が伴うことが多い)。大病院ならば、一人くらいうつ病に詳しい医者がいないのか。本当におかしい。このような状況だから、一般患者のうつ病を見落とす。うつ病の治療をしないで、対症的な薬物投与が行われる。
 種々のむつかしい身体の病気(がん、脳疾患、心疾患、耳、目の病気・・・・・)があり、その診断法、治療法を研究、習得しなければならないので、すべての医者が、うつ病の予防法、治療法に詳しくないのは理解できるが、大病院に一人も、うつ病に詳しい医者がいないのは、問題ではないか。一人でもいれば、その病院での勤務状況が、うつ病を起こすおそれがあると判断すれば、あるいは、同僚の医者の様子から、うつ病になりかけていると判断すれば、その対策を進言するだろう。
 まず、指導医自身が、心身の健康状態であってほしい。そうでないと、研修医、他の医者もストレス状態になる。患者もその医者から最高状態での医療を受けることができなくなる。
 人は、自分が身体状態、精神状態ともに、健康で、安定していないと、認知のゆがみ、行動のゆがみが起きて、実力を発揮できず、他者に、やさしくできない。判断力が変化しているので、診断ミス、見落とし、医療事故もおきてしまう。
 医療関係者がストレス緩和の対策をとっていただきたい。そこでは、薬物療法ではなくて、心理療法や、予防的なカウンセリングの手法が必要である。