睡眠不足からうつ病 ― 2005年06月30日 06:09
睡眠不足からうつ病
うつ病と睡眠障害には密接な関連があります。- (A)ストレスは、HPA系の亢進と自律神経・青斑核の興奮を起こし、不眠をもたらす。
HPA系は、視床下部→脳下垂体→副腎の系列である。次項に説明する。 - (B)うつ病になると睡眠障害の症状がある。
- (C)睡眠障害が持続すると、「うつ病」になりやすい。
- (D)学生時代に睡眠障害のある人は、ない人に比べて、中高年期に「うつ病」になるリスクが高い。
(A)ストレス→HPA系の亢進と自律神経・青斑核の興奮・不眠
ストレスは、HPA系の亢進と不眠の両方をひき起こす。ストレスを受けると、視床下部からCRH(副腎皮質刺激誘発ホルモン)の分泌が高まる。CRHは、脳下垂体に達して、ACTH(副腎皮質刺激ホルモン)が分泌される。ACTHが、副腎皮質に達するとコルチゾ-ルの分泌を促進する。コルチゾ-ルは、ストレスホルモンの代表である。各種の臓器や免疫系に種々の作用を起こす。これを、HPA系という。視床下部→脳下垂体→副腎の系列である。また、CRHは、交感神経を通して種々の臓器の情動性自律反応をひきおこす。CRHは延髄青斑核のノル・アドレナリン・ニューロンの活動を増加させ、脳の覚醒レベルを引き上げる。
こうして、ストレスは、HPA系の亢進と不眠の両方をひき起こす。
(B)うつ病=睡眠障害の症状
睡眠障害には、次のような種類がある。- 入眠障害=床についてから眠れない。
- 中途覚醒と再入眠障害=寝ついても目覚めてしまい、眠りに戻ることが困難である。
- 熟眠障害=起床時に眠りが浅いと感じる。
- 早朝覚醒=ふだんの起床時刻よち2時間以上早く目覚め、それから眠れない。うつ病の患者は、睡眠障害のために、特に午前中に起床して活動することが困難になることが多い。
(C)睡眠障害→まもなく「うつ病」
次に、(B)睡眠障害→まもなく「うつ病」である。時折、不眠を訴えている人は、やがて、うつ病を発症することが多い。不眠ではあるがうつ病ではないものを1年後に再調査すると、うつ病の発症率が、不眠が無かった人の、39倍であったという報告がある(1)。このように、慢性の不眠は、うつ病に移行することがあるので、長引かせず、治療をすべきである。
ストレスはHPA系の亢進と不眠をもたらすが、不眠はHPA系を刺激して、悪循環を起こす。HPA系の興奮が持続すると「うつ病」になる(2)。詳細は、参照文献をご覧下さい。
- ストレス→HPA系の亢進と不眠
- 不眠→HPA系を刺激する
- (注)
- (1)「こころの科学」119号、日本評論社、2005/01、特別企画「不眠と睡眠の科学」55頁
- (2)同上、57頁。
(D)若い時の睡眠障害→中高年期に「うつ病」
アメリカの大学医学部の卒業生を長期間にわたって追跡調査したところ、学生時代に不眠にあった者では、なかった者に比べて、中年以降になっての、うつ病の発症率が2倍であった(1)。詳細は、参照文献をご覧下さい。若い時に睡眠障害があると、かなり後になって「うつ病」になりやすいということである。
以上を総合すると、ストレスがコントロールされないと睡眠障害を起こし、睡眠障害が長引くと、うつ病になる危険が高まる。うつ病の他の症状が改善した後にも不眠が持続すると、うつ病の再発の危険が高まる。うつ病の再発に先駆けて不眠が出現する。不眠のうちに、治すことが大切である。
過労になると、睡眠時間も短く、不規則になるので、睡眠障害をおこしやすいだろう。過労からの、うつ病、自殺も多い。
今後も、睡眠障害とうつ病の関係の研究はすすむであろうが、関係が深いようである。
- 参考書
- (1)「こころの科学」119号、日本評論社、56頁。
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