うつ自殺予防策研究 厚労省2005年06月15日 07:39

うつ自殺予防策研究が厚労省によって開始

 厚生労働省がうつ病による自殺を減らすための初の大規模研究に着手すると報じられた。(朝日新聞、6月11日夕刊)

 厚労省の研究班が3月、うつ病による自殺予防について、各地の先駆的な取り組みや課題と評価を報告書にまとめた。その上で、二つの研究計画を提案した。今回の大規模研究では、自殺率20%削減の成果目標を設定する。
  • (1)「地域特性に応じた自殺予防地域介入研究」
  • (2)「うつによる自殺未遂者の再発防止研究」
 (1)「地域介入研究」では、自殺予防介入プログラムを行う地区(5カ所程度、7万5000人)と、通常の自殺予防策の地区(同)を比べ、06年度から3年半で効果的な方法を見いだす。

 (2)「再発防止研究」は、うつ病による自殺未遂で救急救命センターに搬送された人が対象。3年半でうつ病の再発を30%減らすのが目標だ。具体的には、救急部門と精神科の連携がとれた複数の医療機関に搬送されてきた1000人のうち、半数については通常の治療に加えて、電話やメールによる相談、ITの症状判定プログラムを使うなどで、うつ病の再発率や自殺未遂率などを比較する。
 この研究で、自殺率20%削減の成果目標を設定する。この程度の自殺は減少するのであろう。今、自殺を思っている人は、思いとどまって欲しい。この研究の成果が数年後に現れるはずだから。
 さて、この大規模研究の成果が現れても、2010年に、なお、2万2千人も自殺があると見込む。この研究には触れられていないが、医師による薬物療法の技術向上、うつ自殺対策専門に選ばれたカウンセラーの教育も早く開始すべきである。

相談員・カウンセラーが心を病む

 忙しくて、うつ自殺に興味のないカウンセラーも多いだろうから、カウンセリング手法の教育・向上は、医師・カウンセラー全部を対象と考える必要はないだろう。うつ自殺のカウンセリングは、難しくカウンセラー自身がストレスを受けて、心を病みかねない。クライアントの苦悩・感情に巻き込まれて、カウンセラーが感情的になる。感情は、心を病むもとである。「逆転移」がある。連載3回の「仙台いのちの電話の相談員」の写真の下に「自身も苦しむ相談員は、定期的に意見交換会を開き、互いにケアし合う」とある。
 いのちの電話相談員は常勤ではなく、月に何回かの応対をするのだが、それでも、自殺を考えている見知らぬ人との会話からは、ストレスを感じる。それによって、相談員の側が苦しむ。相談員になる人は、社会貢献の意欲がありやさしく誠実な人が多いであろう。だが、こういう傾向が、「うつ病」になりやすい。
 一般のカウンセラーや医師は、常勤である。うつ病のクライアント(患者)を毎日、数多く応対するので、かなりストレスを受けるだろう。通常の医者にもうつ自殺が多い。うつ病自殺の専門家であっても、自分自身が、それに陥ることもある。この問題の支援から離れていく人も多いであろう。(私もいつ撤退するかもしれないのだ)
 こういうことがあるので、むつかしそうに見える深刻な問題のカウンセラーになる人は限られる。私は、いくつかのカウンセリング組織を見ているが、「治す」カウンセリングができる人は、ごく少数である。  

医療の質・カウンセリング手法の向上、社会のエゴイズム改善も

 04年の自殺者数、3万2千人を、2010年に、2万2千人にする。厚生労働省の研究によって、6千人規模の自殺は防止できる。政治、政策としては、そこまでなのであろう。だが、あとの、2万2千人の自殺がある。大規模研究で用いられる手法は現行のものであろう。現行の医療・手法では救えないうつ自殺もあるだろう。さらに、うつ自殺を減少させるのは、薬物療法、心理療法、カウンセリングの質の向上が必要である。
 もう一つ。今朝、テレビで、中学生の自殺がいじめによるものであったというニュースが流れた。小学生、中学生、高校生、そして、大人にも、いじめがある。自分の好みでない人を集団でいじめる。いじめられた人は、その時、うつ自殺になったり、仕返しから犯罪(高校生の爆発物事件があった)におよんだりする。大人も自分の感情や欲望を抑制できない国民になっている。心の病気、うつ病、自殺という観点からの、うつ病・自殺防止のために、学校教育、社会教育が必要である。弱い人をうつ病・自殺に追い込まない組織を作り上げなかればならない。

 わかってはいるが、どうやるのか難しい。まず、自分のこと、自分の家庭を振りかえり、始めていけばよい。夫婦は互いに愛し、尊敬しているか。親子は会話しているか。兄弟の仲はよいか。嫁姑の仲はよいか。感情的になっていないか。いじめていないか。何が問題なのか。自分のこと、自分の家庭がうまくいかない人は、イライラしている。感情的になりやすい。外にはけぐちを求める。いじめ、非行・犯罪。そういう人は、人を信頼できない。親子でさえ、兄弟でさえ、対立・不和。まして、先生やカウンセラーのいうことなど信用できようか。大人の感情、エゴイズムが、子供に移転し学習される。悪循環がやまない。
 種々の領域にエゴイズムが蔓延している。「3つ子の魂 百まで」という。人の感情系の脳は、3歳までに大きく成長する。それから、小中校時代の家庭環境、社会環境が、その人の感情処理、ストレス対処能力に影響する。感情的な家庭、夫婦・兄弟が不和な家庭では、子供の心に悪く影響する。そこを変えていく努力をしなければ、社会全体がよくならない。自分の家庭がおかしくて、どうして、社会がよくなるといえようか。うつ病、自殺未遂の方の支援だけではなくて、予防的カウンセリングが必要である。これは「臨床」ではなく、予防である。別な手法も要求されるという。種々の領域で、種々の智慧が必要である。自分の経験した領域で、できることをやっていっていく。連載で、紹介された個人のボランティアがそうであろう。だが、それぞれの分野で、もっと多くの人ができるはずだ。自分は大丈夫だと、無視、傍観していると、周囲が崩壊して、周囲から自分の足場を侵食されるに違いない。自分は日本という場に住んでいる。その場の崩壊を無視・傍観していれば、子や孫の代になって、その犠牲になるかもしれない。他人事と思ってはいけない。
 自分、自分の家庭には緊張、対立、不和はないか。あきらめていないか。
 自分の組織には、いじめ、差別、偏見、不和、我利はないか。みないふりをしていないか。
 こういうところから、いじめ、うつ、自殺、非行・犯罪などが起きる。

 どうすれば改善できるか、努力しているか。

 厚生労働省の研究は始まったばかりだ。効果が現れるまでに数年かかる。ひとりひとりが、努力しないと、ごく近い人が、犠牲になる。