ニート対策が始まる2005年07月19日 10:09

 最近、ニートについて関心が高まっている。
 「ニート」とは、通学(Education)も仕事(Employment)もしておらず職業訓練(Training)も受けていない人々、とされる。
    "Not in Education, Employment, or Training"の頭文字をとって”NEET"
 この春、内閣府が発表した推計では15~34歳のニートは02年時点で約85万人にのぼり、10年前の92年に比べて約18万人も増えた。
 今年(2005年)、次のような動きがある。
  • 6月13日、中山文部科学相はニート対策視野に入れた生涯学習振興策を諮問
     中山文部科学相は、ニート対策も視野に入れた「生涯学習の振興策」と、「青少年の意欲を高めて心と体を伴った成長を促す方策」の2点について中央教育審議会(鳥居泰彦会長)に諮問した。ニート対策では、若者の職業能力を高める学習機会を設けるには何が必要か議論する。
     ニートは、若い人が特に問題とされているが、一方で、中高年層の失業も深刻な状況が続いている。諮問は、これらの人たちへの生涯学習の支援策を議論することになっている。中高年の失業は別に考えることにして、しばらく、若い人のNEETについて考えてみたい。
  • 6月25日、文部科学省が個別面接で「ニート」実態調査の概要が固まった
     「なぜニートになったのか」を文部科学省が調査する。ニートの実態調査の概要が25日、固まった。原因解明に重点を置くことが特徴で、ニートの数十人に個別面接し、家庭環境や友人関係との関連性などを調べる。秋に結果をまとめる方針だ。 政府は就業支援を柱とした対策に乗り出しているが、文科省は学校教育の側面から、ニートの防止の可能性を探る。  調査項目の柱は(1)個人の属性(2)学習歴や就業歴(3)家庭環境(4)友人関係など人とのつながり(5)自分をどうとらえているかなど現在の意識の5点。
 ニートの人は、収入がないので、親などに依存していることが多いが、親が強く就職を迫ったり、高齢化するにつれて、ひきこもっておられなくなると、悩むことになって、そのうちの一部から、うつ、自殺に発展していく可能性があるだろう。
 なぜ、ニートになっているのかは、種々の原因がある。対策も異なるであろう。いくつかみていく。

ニート=(1)パーソナリティ障害2005年07月19日 17:14

ニート=(1)パーソナリティ障害

 ニートは、種々の人たちから構成されていると言われている。
  • (A)「就職口がなくてやむを得ず」
  • (B)「仕事に要求される技能がない」
  • (C)「向いている仕事がわからない」
  • (D)「高い夢を抱き、それにあう仕事がみつからない」
  • (E)「対人恐怖から」
  • (F)「うつ病」から
  • (G)「パーソナリティ障害」から
  • (H)その他
 (A)(B)は、職業関連の公的機関や財界による就職口の情報提示や就職相談、技能訓練などが提供されることで改善の方向が見える。だが、他に、むつかしいケースがあるようだ。

 まず、(G)パーソナリティ障害により、就職する気にならないとか、就職できても、対人関係などのトラブルからやめてしまい、その繰り返しから、やがて就職活動もしなくなるケースがある。ニートの一部には、こういう人がいるであろう。
 パーソナリティ障害には、種々のタイプがある。たとえば、
  •  回避性パーソナリティ障害の場合、その症状の一つに、「批判、否認、または拒絶に対する恐怖のために、重要な対人接触のある職業的活動を避ける」という症状がある。
  •  依存性パーソナリティ障害の場合、「日常のことを決めるにも、他の人達からのありあまるほどの助言と保証がなければできない」「自分自身の考えで計画を始めたり、または物事を行うことが困難である」というような症状がある。
  •  強迫性パーソナリティ障害の場合、「活動の主要点が見失われるまでに、細目、規則、一覧表、順序、構成、または予定表にとらわれる」「他人が自分のやるやり方どおりに従わない限り、仕事を任せることができない、または一緒に仕事をすることができない」というような症状がある。
  •  境界性パーソナリティ障害には、「理想化とこき下ろしとの両極端を揺れ動くことによって特徴づけられる、不安定で激しい対人関係様式」「不適切で激しい怒り、または怒りの制御の困難」がみられる 。
 このような障害があって、十分なカウンセリング、サポートが受けられないで、軽減・治癒に至らず、就職できない状況においこまれている若者もいるだろう。ニート対策をたてる場合に、こういうことで長く苦労している人達の支援策も考えてもらいたい。
 ほかに、自己愛パーソナリティ障害は、(D)「高い夢を抱き、それにあう仕事がみつからない」ケースに関連することがあるだろう。(C)「向いている仕事がわからない」というケースの一部には、パーソナリティ障害には該当しないが、広くみられる依存的、変化への恐怖を背景にした「拒絶性スタイル」による場合があるだろう。こういうケースが多いようであるから、別にみていく。

ニート=(2)「向いている仕事がわからない」(拒絶性スタイル)2005年07月22日 06:39

 矢幡洋氏が、「拒絶性スタイル」とニートの関連についての仮説を提言している。

 「やりたい仕事がわからない」という表現で、就労しないニートは、実は、ある程度類型化された行動パターンがあるという。それは、米国の精神医学会の「精神疾患の分類と診断の手引」(DSM-Ⅳ)の付録「検討を必要とするカテゴリー」で「拒絶性パーソナリティ障害」として指摘している行動パターンである。矢幡氏は、「拒絶性スタイル」は、一個の疾病として診断的に当てはめるのではなくて、拒絶性パーソナリティ障害に特有なものとは限定せず、複数の性格タイプが共通して用いる戦略とみなす。依存性がまさった性格タイプ全般が共通して用いる対人戦略、共通のツールとしてとらえる。

 「拒絶性スタイル」に共通の特徴は、一言でいえば、「消極的抵抗」である。このタイプの人たちは、主に親・教師・職場の上司のような「何らかの要求をしてくる人たち」との関わりにおいて、消極的な抵抗を示す(力関係そのものを転覆させるような激しい「反乱」「闘争」ではない。(注1)。

「消極的抵抗」のしかたには、人によって次のどれかを示す。
  • サボタージュ=本当はしたくないような仕事には、故意にゆっくり働いたり、悪い出来になるように見える行動をする。自分の仕事の分担をやらない。
  • 引き延ばし=しなければならないことを延期し、期限に間に合わない。
  • 当り散らす=やりたくないことをするように言われた時、不機嫌、ひどく怒る、または、理屈っぽく言う。
 こういう行動パターンをとるために、このタイプの人達は「仕事につくのに消極的」「職場でうまくいかない」という傾向がある。せっかく、就職しても、職場で上記のような行動をとるために長く勤務できない。家族との間でも、就職に関連することを強く迫られると、上記のような行動をして、就職しようとしない。

 なぜ、そういう行動パターンをとるのか、どこから来るのか。
  • やりたいことがない
  • 変化への恐怖
 「特にほかに自分がやりたいことがあるわけではないが、他人の意向によって今とは別のステージに連れていかれるのは嫌だ」という漠然とした「変化への恐怖」がある。状況が変われば、もっと厳しい現実が待っているかもしれない。とりあえず今のままでいたい」というのが本音である。

 なぜ、やりたいことが見つからないのか、それは「依存性」の生き方から来る。
  • 常に群れの中に入ってひたすらその集団の他人と同じように振る舞い、目立たないように同調行動をとって、群れの中で受け入れられるように生きてきた。
  • グループや他者への依存性の高い人は、他人の方に視線を向けて、自分の価値観や願望を形成しないままに成長してきた。
 こういう行動パターンは、学生時代の、和とか他者との協調という観点からは、肯定的に評価されるところがあるから、破綻は目立たない。しかし、就職や結婚など、基本的に他人の力を頼むことができず、自分ひとりで決断して切り抜けなければならないような局面になって、この生き方が欠点をあらわす。
  • 自分固有の意見・価値観が形成されていない。
  • 「自分は何をやりたいのか」ということもわからない。
 このために、やりたいこともなく、これをやりたいという意欲もない人は、職業世界という未知の世界に出ていくことに不安を感じてしまい、現状維持(不就労)にとどまろうとする傾向がある。
 このような心理傾向があって、就職できない状況におきこまれている若者が多数派であろうと矢幡氏は推測している。若いころから、自立心を持ち自己主張ができるように教育されるアメリカには少ないタイプのニートかもしれない。
 もし、この種のニートにこのような心理があるのであれば、大学や財界などが就職の機会や職業訓練の機会を増やしても、それだけでは、このタイプの人が、就職できるわけではない。財界などの支援を得て、せっかく就職しても、消極的抵抗の行動をとって、組織の足を引っ張り、批判されて、怒り、退職するかもしれない。これは、その拒絶性スタイルを修正するための心理的なカウンセリングなどが必要なのではあるまいか。こういう人に対して、矢幡氏は「解決志向セラピー」でのカウンセリングを行うが、欧米では、これに似た「拒絶性パーソナリティ障害」には認知療法などが、試みられているという。そのカウンセリングは、カウンセラーにとっても、相当な忍耐を必要とするようだ。薬物療法では治せない。
 ニートのうち、こういう「拒絶性スタイル」の傾向の人が多いのであれば、ニートの対策をたてる場合に、こういう心理的な対策も考慮して、長く苦労している人達の支援をしてもらいたい。この心理パターンを変えるのに、長期間のカウンセリングが必要であれば、地域の相談機関やNPO等の支援対策も必要であろう。また、こういうタイプは、若いうちに学校教育の過程で修正できるのかもしれない。そういうことも研究して長期的な対策をとらないと、次々と、こういう苦労する人たちが再生産されていく。


(注1)しかし、継続されていると、現状改善を強く迫られると、物を破壊したり、家庭内暴力を起こす可能性がある。これも引き伸ばし戦術である場合がある。見落として対応を誤ると改善しないだろう。「拒絶性スタイル」については、矢幡洋「働こうとしない人たち」(中央公論新社)を参照した。