うつ・自殺の背景にある問題2005年06月20日 08:52

 朝日新聞の連載記事「死ぬな! 自殺3万人時代に」が、10日に終わったが、19日、「読者の投書から」が掲載された。
 一方、同日「自殺予防 44都道府県市が施策」の記事が掲載された。
 この中で、他の国では「うつ病対策はごく一部」として、いかにも、うつ病対策だけではだめだというような論調のコメントがある。今は、時間がないので、詳しくは、論じないが、このようなことをいう人は誤解している。種々の出来事、原因、社会の仕組み、エゴイズムから、うつ病、自殺がおきるから、そのような背景までも視野に入れて対策をとれ、というのが、「うつ病対策」なのである。これまで(今なお)は、精神科医中心に、「うつ病は必ず治る。医者に行け」という。これだけではだめだ、もっと、広範なうつ病対策が必要である、というのが、「うつ病対策」である。薬物療法だけでは不十分なうつ病・自殺にどう対策をとるのか、である。

 「読者の投書から」の記事では、読者の体験が掲載されているが、ここでも、薬物療法だけでは不十分だということをみたい。
  • 会社員女性33歳、2年近く精神科に通ったあげく、自殺未遂2回。この人はこういう。
    「だから、社会で死のうとする前に精神科へ」と決まり文句のように言われるのが気になる」
    「単純に「病院へ」と促しても、「なんだこの程度か」となり、治療は進まないでしょう。」

    (管理者=精神科医での相談体制も重要だ。短い診療で、薬物だけを投与して終わりというのではいけない。同じ病院に、新設の「医療心理士」がいて、時間をかけて、うつの背景の把握、心理的なカウンセリングを併用すれば、改善されるだろうか。そのカウンセリングの力量が問題となる。私はカウンセリングを行っているが、初回は、2時間かけて、背景を聞き、今後のカウンセリング方針を説明するのに、2度とこない人もいる。カウンセリングを継続すれば、治る可能性があるのに、動機づけがむつかしい。)
  • 会社員男性、24歳、借金で自殺決意。(この時、うつになっている)。母からの電話で中止、母が返済してくれた。
    (管理者=借金苦による「うつ病」は、薬物療法だけでは治らない。こういう場合には、うつになる前に、あるいはなってから、「借金苦」について相談を受けるところに行って、相談する。そういう仕組みが必要である。このケースは、最初から、母に相談すべきであった。対人関係療法では、うつ病になる人には、家族(重要な他者)に相談しない、会話しない場合があるという。家族との会話があれば、家族が気がつくことがある。こういう場合、カウンセリングは家族との関係を修復する。この場合、家族が肩代わりしたことで解決できたが、家族でも返済できない状況では、うつ病が治らない。そうすると、もっと、借金問題を専門的に助言してくれるところが必要である。そういう問題の専門家と、そして、うつ病の病理についてはその専門家も同時にケアするという自殺予防の総合センターのような組織が欲しい。両方、同時並行でケアしないと、途中で、自殺されるおそれがある。)
  • 主婦、44歳。多重債務者の心のケアのボランティアをしている。自分がそういう悩みから、リストカットを繰り返していた。ボランティアの支援を受けて立ち直ったのがきっかけ。 ところが、昨年夏、自分の母が自殺した。年金を担保に借金していた。それを知り、法的手続きを進めていた矢先だった。「借金苦などで死ぬ必要はないと、今後も訴えていくつもりです。」という。
    (管理者=まさに、これである。うつ病の病理のケアのない、ボランティア組織、福祉関連の組織ではうつ・自殺問題に弱い。借金苦の悩み相談のボランティアなのに、自分の母に自殺された。母は、うつ病になっていたと思われる。私が、同時にケアする仕組みを作らなければだめだというゆえんである。専門家やボランティアの個々人は、どちらか一つ(このケ-スは、借金問題は熟練、しかし、うつ病の病理に詳しくない)しか熟練しない。一つの組織で、種々の領域の専門家を結集するか、独立した組織が連携しあうネットワークを作り、必ず、すぐさま、うつ病病理の専門家、や組織にも連絡して、即座に並行ケアする仕組みが必要である。うつ病を考慮しない仕組みだけでは、こういう悲劇が起きる。いじめ問題も、いじめそのものの問題(学校、父兄などとの交渉、教師の教育の必要性を訴える、そういう対外的な交渉に得意な専門家)と、うつ病の病理のカウンセリングの専門家の両方が必要である。過労による問題は、法的な専門家とうつ病の専門家の両方が必要である。こういうところまで視野に入れて対策をとっていくのが「うつ病・自殺の対策」である。誤解しないでもらいたい。総合的な対策が「うつ病対策」である。)
  • 主婦、30歳。この春、父が自殺した。1週間前に、退職していた。
    (管理者=リストラでの不本意な退職であるのか、定年の円満退職なのか、文面では不明である。どちらも、起こりうる。家族の中で、親子、夫婦の間で、会話が少ないと、それだけでうつ病になることもあるが、他の出来事が主たる背景であっても、うつ病、自殺の兆候を見落とす。この方の場合、親子の不和ではないが、家族内で、会話がない、不和である、という家庭には、特に、うつ病、自殺の割合が高くなる。対人関係療法はそれをよく指摘している。不和の解決法も教える。薬物療法だけの強調ではいけない。一般の人に、うつ病、自殺の教育、啓蒙が重要だ。誰でも、うつ病、自殺はありえる。)
 私たちの組織には、病理のカウンセリングには詳しい人がいるが、種々の問題(教育、いじめ、医療、介護、借金、など)に詳しいメンバーがいない。そのような人の参加もほしいし、それがだめなら、地域の他の組織との連携をはかりたい。偏見や縄張り根性は捨てなければいけない。