プラシーボからみた薬物療法の限界(1)2005年09月28日 19:37

プラシーボからみた薬物療法の限界(1)

 日本は、自殺が多い。この7年、毎年3万人以上の人が、自殺している。 自殺した人、自殺未遂の人に、薬物療法を受けていた人も多い。薬物療法には、限界がある。  浜松医科大学名誉教授の高田明和氏が、抗うつ薬はプラシーボということに言及している。
     「じつは精神の薬の場合、その効果の多くがプラシーボ(偽薬)効果だという説もあります。新しい薬が効くといわれると、皆その薬に飛びついて、思い込みから一定程度の効果がみられるようですが、そのうちに「効果がみられない、副作用が大きい」という風評が伝わると、急にその薬が効かないと訴える患者が激増します。有名なプロザックですら、偽薬と効果が違わないという疑いが出ています。  これらの情報に興味のある方は、『心の潜在力・プラシーボ効果』(朝日新聞社 朝日選書 広瀬弘忠著)を参照してください。」(『うつ病を自分で治す実践ノート』高田明和、リヨン社、127頁)
 その広瀬氏の言葉は、次のようである。
    「抗うつ剤のような薬では、薬効そのものよりもプラシーボ効果の方が大きい場合があることがわかってきた。」
     「うつ病患者を被験者にした二重盲検による臨床試験で優れた成果が報告されて、その有効性が科学的に認められていた」その薬MK869が、発売後2か月で、発売したメルク社は「宣伝をやめてしまった。そしてこの抗うつ剤の薬効と見られていたものは、実はプラシーボ効果であった可能性があるという記者発表をおこなったのである。」
     「最近では、世界的な評価を得ている抗うつ剤の<プロザック>でさえ、その効果はプラシーボと比べて、統計的には、有意な差がないのではないかという研究発表もおこなわれて、研究者のあいだにかなりの混乱が見られる。そのような混乱の原因の一つは、精神病の治療薬の薬効判定の場合には、たとえば、血液検査」やX線撮影のような客観的な検査方法がなく、もっぱら患者の主観的な報告に頼っているという、薬効判定の方法上の問題がある。」
    『心の潜在力・プラシーボ効果』(朝日新聞社 朝日選書 広瀬弘忠著、43-44頁)
 抗うつ薬が効くか、効かないかは、その患者の心理が大きく影響するということである。患者が薬物療法を信じれば、食塩や砂糖しかはいっていない薬物まがい物(プラシーボ)でも、うつ病が治ることがあるという。抗うつ薬の作用は、プラシーボ効果である可能性が強いというわけである。
 だから、薬物療法を始めて、3~6か月もたつと、患者は、その薬物療法に疑問を持つようになるだろう。そうすると、本当に治りにくくなる。信じられなくなり、絶望する。それが、うつ病を悪化させる。
 中には、1年、2年の薬物療法で、うつ病が治ったという患者もいるのだが、それは、薬物療法の効果ではなくて、患者が、その期間中に、何か心理的にプラス思考になる出来事があったり、本を読んだり、助言を受けたりしたことによる効果である可能性もあるわけである。
 このような薬物療法である可能性が高いのに、自殺防止の対策に、うつ病の人が発見されたら、医者にまわして薬物療法をすすめるという仕組み(東北地方の対策はそうなっている)がモデルになっているのは、きわめて問題のある対策ではないだろうか。東北地方でも、薬物療法を受けた患者が、どの程度、完治したか、再発していないか、などの追跡調査をしてほしい。(他の研究では、治癒率は低く、再発は多い)
 薬物療法以外の治療法を開発しないと、うつ病が薬物療法で治らない患者は、自殺するおそれがある。薬物療法中心の対策では、また、10年遅れてしまうだろう。うつ病、自殺は、心理的影響、社会問題で発病し、心理的、社会的な支援で治ることが多い。そちらの対策を怠らないようにしてほしい。
 うつ病、不安障害からも、不登校やニートが起きる。その原因でなくても、長引く不登校、ニートからも、うつ病が起きるリスクが高い。そこから、自殺、家庭内暴力が起きることもある。うつ病患者の家族、不登校、ニートの人をかかえた家族も、結集して、解決、完治への対策に向けて自らも行動を起こして欲しい。国や県も、動きだしたが、薬物療法への期待、社会の仕組みの改善の方向が模索されていて、時間がかかりそうである。今、不登校、ニートになっている原因が、うつ病や不安障害によるものであれば、もはや、薬物療法では効かないかもしれないし、過労を減らす、借金問題の支援など社会の仕組みの改善では、不登校、ニートの方の「病気」は治らないものが多い。長引くうつ病、重いうつ病、不安障害などの患者を心理療法で治す対策をすすめることに、協力する行動を起こしていただきたい。
 プラシーボ効果は、まだ、うつ病、自殺問題の対策に影響するヒントがある。いつか、別な記事でも、考えてみたい。

医者は自殺を防止できない2005年09月21日 17:35

 「医者は自殺を防止できない」という過激な内容で、日本の自殺問題深刻さを考えてみたい。

 地方の場合、自殺防止運動には、精神科医が重要な役割をになっている。だが、医者は、薬物療法を中心とした治療を行うので、それでは、自殺防止の恒久策とはならないということがわかってきた。
 薬物療法は、完治する療法ではなくて、対症療法にすぎない。そのことがわかってきた。  浜松医科大学名誉教授の高田明和氏のほか、次の報告がある。

薬物療法で治るのは約7割、研究熱心な医師で9割というがその後、また再発

 うつ病の治療の中心は抗うつ薬である。種々の抗うつ薬が発売されて使用されているが、現実には、簡単には治らない人がいる。
 薬物療法だけで完全に治癒するのは、だいたい70%というのがおおかたの治癒率である。
     「幸いなことには治療の中心となる抗うつ薬による薬物療法は、うつ病の七〇~八〇%に有効であり、適切な治療さえすれば、うつ病は予後のよい病気なのである。」
     「うつ病の薬物療法において、1959年にわが国で初めての抗うつ薬としてイミプラミンが導入されて以降、一時は楽観的な見方もうまれていた。ところが急性期の治療に限っても、最近では抗うつ薬治療の限界を示すような報告が増えてきている。たとえば、うつ病の最初に投与された抗うつ薬への反応性は六十~七十%と言われるが、不完全寛解も多くみられ、そのために完全寛解に至る患者は抗うつ薬療法をうけた者の二五~四〇%にすぎないとする研究がある。また、今日では抗うつ薬治療に抵抗する難治性(治療抵抗性)うつ病の問題は軽視できない状況となっている。」(1)
 薬物療法を受けても、完治しているのは、25~40%という研究結果がある。これでは、自殺は減少しない。薬物療法の医師主導の、自殺防止対策では、不十分である。

 上記は厳しい見方だが、うつ病の治療に詳しい医師が薬物を量を変えたり、多くの薬物を変えたりして、薬物治療を行えば、70%くらいに効果があると野村氏は言う。
     「抗うつ薬にはいろいろなものがある(わが国では、1999年5月時点で13種類が発売されている)が、うつ病に対する効果を総括すれば有効率は70%くらいであろう」(2)

     「これは前項と矛盾するようであるが、普通に使って3割弱は効果が十分でないというのではやはり理想的な薬とは言えまい。ただこの3割というという数字が何を意味するのかは、必ずしも明確ではない。つまりかなりの部分、使い方が下手なために無効というのも含まれている数字であろう。一歩突っ込んで言えば、「この30%のうち、半分強はいろいろな工夫をすれば効果が出てくる症例」と考えられる。したがって、本当の意味での無効例は10%くらいかと思われる。この数字は大きくはないが、なおも臨床家とすれば(そして、もちろん患者も)このような例が存在すること自体に不満が残るところである。」(3)
 野村氏の場合、一つの薬で効果がみられない場合、量を増加したり、三還系、SSRI,SNRIなど多くの薬物の種類を変えるとか、併用投与するなどの工夫をするという(4)。だが、こうした、うつ病の薬物療法に詳しい医師は数が限られるだろう。
 薬物療法さえも受けない患者が多いそうだが、薬物療法を受けるとしても、うつ病の薬物療法に詳しい医師にかかっても、1割ないし3割は治らない患者がいる。一度治ったつもりでも、再発が多い。これでは、自殺が減少しない。
 うつ病の薬物療法では、根本的治療とはならないということがわかってきた。だから、保健所などで、「重症者は、精神科医にまわす」という現在の方針は再考が必要であると思う。その根拠を、さらにいくつか、示したい。
 医者は忙しすぎて、完治が期待される心理療法をしない。知らない。医者以外のスタッフが、うつ病、自殺防止にとりくむべきである。
うつ病を完治させて、自殺を減少させるには、うつ病の心理療法ができるカウンセラーを増やさなければならない。うつ病、自殺問題だけのカウンセラーならば、特別な資質のある人が長い研修期間を必要とするものでもない。各種の施設、NPOなどのスタッフも、この問題の解決に貢献できる。
    (注)
    • (1)塩江邦彦「抗うつ薬以外の薬物によるうつ病治療」(「こころの科学97」日本評論社、53頁。)
    • (2)野村総一郎「内科医のためのうつ病心診療」医学書院、58頁。
    • (3)同上、58頁。
    • (4)同上、83頁。

小中高生の自殺あいつぐ2005年09月16日 10:32

 新学期をむかえて、児童生徒の自殺があいついでいる。報道されたので気がついたのは、次のとおりであるが、ほかにも起きているかもしれない。
  • 小6の女子が首つり、早朝の教室で意識不明に。北海道滝川市。 9月9日午前。7時45分ごろ。
  • 中2の女子が首つり、長崎県佐世保市。9月14日午後3時50分ごろ。
  • 長崎県内では8月末から9月1日にかけて若者の自殺とみられるケースが相次ぎ、時津町で高校2年女子、長崎市で高校3年男子、同市で中学2年男子が死亡している。
  • 兵庫県姫路市で、中学二年の男子生徒。9月1日、午前八時二十分ごろ。
 新学期が始まるころ、児童生徒が自殺するのは、学校に行くことがつらい、行きたくないからであろう。学校カウンセラーが配置され、県によっては、一般市民による相談員が校内に置かれている学校もある。
 こういう支援のある学校では、自殺はないのか、それでも起きているのか、解析が望まれる。

 学校カウンセラーの限界もあるだろう。次の点は、推測である。
  • 学校で準備したカウンセラーは、学校側との契約関係にあるから、自由には動けない。うつの深刻な児童生徒がみつかっても、カウンセリングに十分な時間をさけない。うつ病、自殺のカウンセリングに得意ではない。学校内では、重いうつ病になっている児童生徒を長くカウンセリングはできないので、医者を紹介するだろう。しかし、児童生徒に短い診察時間の薬物療法では限界がある。背景にある悩みを聞き、助言しないと治らない。
  • 児童生徒側の心理として、学校側に問題が(先生に傷つけられたとか、いじめを訴えたのに先生が真剣に対処しない、とか)あって、うつ状態になった場合、学校の準備するカウンセラーでは、相談しにくい。学校側に通告されることをおそれる心理が働く。
 学校カウンセラー、相談員など、学校側が準備するカウンセラーだけでは限界があるのではないだろうか。学校外にも、きがねなく相談できる場が必要だろう。  児童生徒の自殺を防止できない問題を議論すべきである。制度的な支援からもれることで起きる自殺を防止する対策が必要であるから、学校のカウンセラーなどからも意見をきくべきだ。そういうことを反映して、地域の学校の児童生徒が自殺しないように、別の支援の仕組みを作りたいものだ。薬物療法を受けよというだけでは、児童生徒の自殺は防止できない。