医者は自殺を防止できない2005年09月21日 17:35

 「医者は自殺を防止できない」という過激な内容で、日本の自殺問題深刻さを考えてみたい。

 地方の場合、自殺防止運動には、精神科医が重要な役割をになっている。だが、医者は、薬物療法を中心とした治療を行うので、それでは、自殺防止の恒久策とはならないということがわかってきた。
 薬物療法は、完治する療法ではなくて、対症療法にすぎない。そのことがわかってきた。  浜松医科大学名誉教授の高田明和氏のほか、次の報告がある。

薬物療法で治るのは約7割、研究熱心な医師で9割というがその後、また再発

 うつ病の治療の中心は抗うつ薬である。種々の抗うつ薬が発売されて使用されているが、現実には、簡単には治らない人がいる。
 薬物療法だけで完全に治癒するのは、だいたい70%というのがおおかたの治癒率である。
     「幸いなことには治療の中心となる抗うつ薬による薬物療法は、うつ病の七〇~八〇%に有効であり、適切な治療さえすれば、うつ病は予後のよい病気なのである。」
     「うつ病の薬物療法において、1959年にわが国で初めての抗うつ薬としてイミプラミンが導入されて以降、一時は楽観的な見方もうまれていた。ところが急性期の治療に限っても、最近では抗うつ薬治療の限界を示すような報告が増えてきている。たとえば、うつ病の最初に投与された抗うつ薬への反応性は六十~七十%と言われるが、不完全寛解も多くみられ、そのために完全寛解に至る患者は抗うつ薬療法をうけた者の二五~四〇%にすぎないとする研究がある。また、今日では抗うつ薬治療に抵抗する難治性(治療抵抗性)うつ病の問題は軽視できない状況となっている。」(1)
 薬物療法を受けても、完治しているのは、25~40%という研究結果がある。これでは、自殺は減少しない。薬物療法の医師主導の、自殺防止対策では、不十分である。

 上記は厳しい見方だが、うつ病の治療に詳しい医師が薬物を量を変えたり、多くの薬物を変えたりして、薬物治療を行えば、70%くらいに効果があると野村氏は言う。
     「抗うつ薬にはいろいろなものがある(わが国では、1999年5月時点で13種類が発売されている)が、うつ病に対する効果を総括すれば有効率は70%くらいであろう」(2)

     「これは前項と矛盾するようであるが、普通に使って3割弱は効果が十分でないというのではやはり理想的な薬とは言えまい。ただこの3割というという数字が何を意味するのかは、必ずしも明確ではない。つまりかなりの部分、使い方が下手なために無効というのも含まれている数字であろう。一歩突っ込んで言えば、「この30%のうち、半分強はいろいろな工夫をすれば効果が出てくる症例」と考えられる。したがって、本当の意味での無効例は10%くらいかと思われる。この数字は大きくはないが、なおも臨床家とすれば(そして、もちろん患者も)このような例が存在すること自体に不満が残るところである。」(3)
 野村氏の場合、一つの薬で効果がみられない場合、量を増加したり、三還系、SSRI,SNRIなど多くの薬物の種類を変えるとか、併用投与するなどの工夫をするという(4)。だが、こうした、うつ病の薬物療法に詳しい医師は数が限られるだろう。
 薬物療法さえも受けない患者が多いそうだが、薬物療法を受けるとしても、うつ病の薬物療法に詳しい医師にかかっても、1割ないし3割は治らない患者がいる。一度治ったつもりでも、再発が多い。これでは、自殺が減少しない。
 うつ病の薬物療法では、根本的治療とはならないということがわかってきた。だから、保健所などで、「重症者は、精神科医にまわす」という現在の方針は再考が必要であると思う。その根拠を、さらにいくつか、示したい。
 医者は忙しすぎて、完治が期待される心理療法をしない。知らない。医者以外のスタッフが、うつ病、自殺防止にとりくむべきである。
うつ病を完治させて、自殺を減少させるには、うつ病の心理療法ができるカウンセラーを増やさなければならない。うつ病、自殺問題だけのカウンセラーならば、特別な資質のある人が長い研修期間を必要とするものでもない。各種の施設、NPOなどのスタッフも、この問題の解決に貢献できる。
    (注)
    • (1)塩江邦彦「抗うつ薬以外の薬物によるうつ病治療」(「こころの科学97」日本評論社、53頁。)
    • (2)野村総一郎「内科医のためのうつ病心診療」医学書院、58頁。
    • (3)同上、58頁。
    • (4)同上、83頁。

コメント

トラックバック