書籍紹介「医者にうつは治せない」(2)=薬物療法で治らない例(A)2005年09月28日 10:04

書籍紹介「医者にうつは治せない」織田淳太朗、光文社新書

 著者自身が、うつ病になり薬物療法を受けたが、効果に疑問を持ったこと、入院中に知った薬物療法の弊害、治らない患者、自殺していった知人をみて、薬物のみによるうつ病の治療を批判している。
 薬物療法だけでは治らなかった例がいくつか紹介されている。こういうことは、医者主導のうつ病、自殺防止活動で紹介されることは少ない。病気ならば、療法によって、人によって、効く、効かないがある。治療法は、どれも(私たちの療法も)絶対ではないので、しばらく(6カ月~1年か?)治療して治らない場合、効果なしとして、他の療法を試みるべきだろう。
  • 薬物療法で治らない事例A
    A子さん、著者が入院して知り合った女性。過去に何度か、リストカットをしたことがあった。 ある病院に入院して、うつ病の治療を受けた。 「A子の主治医は患者うちで「患者を薬漬けにする」ドクター」と囁かれていた三十代前半の若い医師だった。A子も不調を訴えるたび、薬だけがどんどん増やされていった。一度、彼女の服用する薬を見て、驚いたことがある。抗うつ薬と抗不安薬が私のそれの約三倍、睡眠薬に至っては約四倍もの量があったからである。
     しかし、薬が増えても、彼女の症状は緩和されることがなかった。それどころか、しばらくすると一日の大半をベッドの中で過ごすようになった。前出の長瀬がそうだったように、猛烈な眠気が原因だった。」
 以下、織田氏は、抗うつ薬の、副作用について述べる。
A子さんは、その後、平成11年5月退院。違う病院に通院、以前よりは薬が減った。治らないので、東京の生活をやめて、郷里の父のもとに帰り、そこの病院の外来で投薬治療。著者は、メールで「慰め」の文を送っていた。だが、ある日、自殺した。
     「私が後に精神科の受診を回避し、服薬の一切を放棄したのは、この彼女の自殺と無縁ではない。なぜ、彼女はよりによって退院後に自らの命を絶ったのか。長期にわたる入院治療の意味は、いったいどこにあったのか。彼女の主治医が推し進めた薬物増量の措置に、どんな効果があったというのか。そもそも彼女は本当にうつ病だったのか。
     これらの私の疑問が、投薬中心療法に対する不信感に繋がったのは、少なくとも否定できない。」(53頁)
 「本当にうつ病だったのか」というのは、他の病気との誤診を疑うのである。うつ症状が伴うが、主たる病気は、別ものであることがある。不安障害、パーソナリティ障害や統合失調症などとの誤診がありえる。軽い「うつ病」でも、心理療法ならば、副作用もなしに、早く治った可能性があるのに、薬物療法を始めたばかりに、副作用のために、その作用をおさえる薬を追加されて、学業、仕事からとおざかり、かえって重症化する場合もあるだろう(この本にも記述されている)。
 誤診して、薬物療法を開始すると、処方する治療薬が違うのだから治らず、副作用から正常な生活を送れなくなるケースが起こりえる。うつ病でなくても、長びくと苦悩から、かえってうつ病をひきおこし、うつ病が長引いていると見られてしまう。彼女の場合、最初、うつ病だったのかどうか、そこを疑う。
 秋田県の予防対策を実施してきても、3割ほど減少したところがあるとのこと。だが、残りの7割が、薬物療法でも治らないものが多く含まれていないのか、そこを分析して、他の治療法を加えることが必要ではないだろうか。社会の仕組みの改善からばかりではなく、なってしまったうつ病、自殺念慮、パニック障害などの治療法の質の向上も対策をとってほしい。
 私は、心理療法絶対主義ではない。そんなことをすれば、患者が困る。心理療法に向かない患者もいる。患者によって、経過によって、患者に最もあった治療法を常に検討していくべきだ。医者やカウンセラーの固定観念にとじこめてはいけない。
 他の例も、別な時に、ご紹介して、薬物療法が効かないケースへの対策の必要性を考えたい。


(関連記事/薬物療法は再発が多い)

プラシーボからみた薬物療法の限界(1)2005年09月28日 19:37

プラシーボからみた薬物療法の限界(1)

 日本は、自殺が多い。この7年、毎年3万人以上の人が、自殺している。 自殺した人、自殺未遂の人に、薬物療法を受けていた人も多い。薬物療法には、限界がある。  浜松医科大学名誉教授の高田明和氏が、抗うつ薬はプラシーボということに言及している。
     「じつは精神の薬の場合、その効果の多くがプラシーボ(偽薬)効果だという説もあります。新しい薬が効くといわれると、皆その薬に飛びついて、思い込みから一定程度の効果がみられるようですが、そのうちに「効果がみられない、副作用が大きい」という風評が伝わると、急にその薬が効かないと訴える患者が激増します。有名なプロザックですら、偽薬と効果が違わないという疑いが出ています。  これらの情報に興味のある方は、『心の潜在力・プラシーボ効果』(朝日新聞社 朝日選書 広瀬弘忠著)を参照してください。」(『うつ病を自分で治す実践ノート』高田明和、リヨン社、127頁)
 その広瀬氏の言葉は、次のようである。
    「抗うつ剤のような薬では、薬効そのものよりもプラシーボ効果の方が大きい場合があることがわかってきた。」
     「うつ病患者を被験者にした二重盲検による臨床試験で優れた成果が報告されて、その有効性が科学的に認められていた」その薬MK869が、発売後2か月で、発売したメルク社は「宣伝をやめてしまった。そしてこの抗うつ剤の薬効と見られていたものは、実はプラシーボ効果であった可能性があるという記者発表をおこなったのである。」
     「最近では、世界的な評価を得ている抗うつ剤の<プロザック>でさえ、その効果はプラシーボと比べて、統計的には、有意な差がないのではないかという研究発表もおこなわれて、研究者のあいだにかなりの混乱が見られる。そのような混乱の原因の一つは、精神病の治療薬の薬効判定の場合には、たとえば、血液検査」やX線撮影のような客観的な検査方法がなく、もっぱら患者の主観的な報告に頼っているという、薬効判定の方法上の問題がある。」
    『心の潜在力・プラシーボ効果』(朝日新聞社 朝日選書 広瀬弘忠著、43-44頁)
 抗うつ薬が効くか、効かないかは、その患者の心理が大きく影響するということである。患者が薬物療法を信じれば、食塩や砂糖しかはいっていない薬物まがい物(プラシーボ)でも、うつ病が治ることがあるという。抗うつ薬の作用は、プラシーボ効果である可能性が強いというわけである。
 だから、薬物療法を始めて、3~6か月もたつと、患者は、その薬物療法に疑問を持つようになるだろう。そうすると、本当に治りにくくなる。信じられなくなり、絶望する。それが、うつ病を悪化させる。
 中には、1年、2年の薬物療法で、うつ病が治ったという患者もいるのだが、それは、薬物療法の効果ではなくて、患者が、その期間中に、何か心理的にプラス思考になる出来事があったり、本を読んだり、助言を受けたりしたことによる効果である可能性もあるわけである。
 このような薬物療法である可能性が高いのに、自殺防止の対策に、うつ病の人が発見されたら、医者にまわして薬物療法をすすめるという仕組み(東北地方の対策はそうなっている)がモデルになっているのは、きわめて問題のある対策ではないだろうか。東北地方でも、薬物療法を受けた患者が、どの程度、完治したか、再発していないか、などの追跡調査をしてほしい。(他の研究では、治癒率は低く、再発は多い)
 薬物療法以外の治療法を開発しないと、うつ病が薬物療法で治らない患者は、自殺するおそれがある。薬物療法中心の対策では、また、10年遅れてしまうだろう。うつ病、自殺は、心理的影響、社会問題で発病し、心理的、社会的な支援で治ることが多い。そちらの対策を怠らないようにしてほしい。
 うつ病、不安障害からも、不登校やニートが起きる。その原因でなくても、長引く不登校、ニートからも、うつ病が起きるリスクが高い。そこから、自殺、家庭内暴力が起きることもある。うつ病患者の家族、不登校、ニートの人をかかえた家族も、結集して、解決、完治への対策に向けて自らも行動を起こして欲しい。国や県も、動きだしたが、薬物療法への期待、社会の仕組みの改善の方向が模索されていて、時間がかかりそうである。今、不登校、ニートになっている原因が、うつ病や不安障害によるものであれば、もはや、薬物療法では効かないかもしれないし、過労を減らす、借金問題の支援など社会の仕組みの改善では、不登校、ニートの方の「病気」は治らないものが多い。長引くうつ病、重いうつ病、不安障害などの患者を心理療法で治す対策をすすめることに、協力する行動を起こしていただきたい。
 プラシーボ効果は、まだ、うつ病、自殺問題の対策に影響するヒントがある。いつか、別な記事でも、考えてみたい。

プラシーボからみた心理療法の長所2005年09月28日 21:12

 薬物(がん、心臓病、その他身体の病気の治療に使われる薬すべて)が、人に効くのに、心理が強く影響する。信じる患者は、にせの薬物(プラシーボ)を与えても、治ることがある。プラシーボの研究をしている広瀬氏は、うつ病、自殺念慮を持つ患者に処方される「抗うつ剤」が効くのは、プラシーボ効果であるらしいとの最近の研究動向を紹介している。
 抗うつ薬は、患者が信じないと、効きにくい。逆のプラシーボ効果がある。患者が治らないで長引くと、暴言を言ったり軽蔑したりする医者がいる。そんな医者や、金もうけ主義が見えたり、薬づけとみられるような医者は、精神科医としては失格である。患者が、医者に、不信感をいだくので、薬物の効果がなくなるという逆のプラシーボ効果(マイナスのプラシーボ効果、ノーシーボ効果)があるためである。薬物療法の副作用のみを与えて、完治させないおそれがある。
 では、心理療法はどうか。心理療法は、薬を与えないのに、患者が治る。笑いでも、カウンセラーの言葉の助言でも、患者の身体内に生理的変化が起きる、免疫が活性化する。セロトニン神経が活性化する。広瀬氏は、心の病気の「心理療法」もプラシーボ効果で、治療に役立つという。
     「結局のところ、心理療法はプラシーボ効果に依拠している。」
     「これまでの議論の展開をふまえて、著者は、心理療法をプラシーボの一つのかたちであると考えたい。心理療法は心の病を治す医療的な価値を十分に備えた療法である。著者がこれをプラシーボであるといったとしても、心理療法をおとしめようという意図はまったくない。むしろ逆である。心理療法こそ、プラシーボ効果を最も有効に利用したわたしたちの叡智の結果ともいうべきものである。プラシーボという言葉につきまとう、うさんくささを払拭すべきだと思う。プラシーボ効果に対する偏見を捨て去るべきだろう。プラシーボ効果は、わたしたち人類が、長い進化の過程のなかで獲得してきた大きな可能性であり、潜在能力であることを知るべき時なのではないだろうか。これまでにも話してきたように、この大きな可能性を秘めた潜在能力についての科学的研究は、やっと始まったばかりだ。プラシーボ効果について、もっと多くのことが解明され、その成果が積極的に利用されるようになることを望みたい。」
    (『心の潜在力・プラシーボ効果』(朝日新聞社 朝日選書 広瀬弘忠著、176頁)
 そうすると、心理療法も、患者がカウンセラーやカウンセリング技法を信じないと、治りにくいという。カウンセラーが、自分の力量に不安がある、というのでは困る。自信をもっていないカウンセラーは、患者の質問に、自信をもって答えないし、カウンセラーの指導態度がひかえめであり、カウンセリング力量は、カウンセラーの態度、言葉で患者に微妙に伝わる。患者の信頼をえられないカウンセラーでは、心理療法も効かない。そのことを次にご紹介しよう。