血流で心の病判定2005年05月30日 08:06

 群馬大病院では、光トポグラフィーという装置で、うつ病などの心の病気の診断を行う治験(まだ保険扱いではない)を実施している。脳の血流量を近赤外線で測るヘッドギアのような装置である。 意欲や意思をつかさどる脳の前頭葉部分の血流を測ると、うつ病患者は健常者に比べ血流が少ない、などのパターンがある。
 研究している福田助教授の話「うつ病など心の病の診断は、今は問診で決まる。でもこれからは、高血圧患者の血圧のように、客観的な指標が必要です」
 まだ、保険適用されないが、6施設で治験がすすんでいる。(以上、朝日新聞 5/30/2005 より)

 こういう研究が行われているのは、次の背景がある。  うつ病には身体症状が伴うことが多い。身体症状としては、自律神経系の障害により、様々な症状があらわれる。最も多いのは睡眠障害で、寝付きが悪い、朝早くめがさめる、眠りが浅い、など。次いで、食欲低下、性欲の低下という生命活動に関する欲望が低下する。身体がだるい、下痢、便秘、胃腸系の障害もある。腹痛、頭痛、筋肉痛、四肢痛などの痛みもあり、うつ病と知らないで、その方面の医者にかかることも多い。
 その他、肩こり、しびれ、めまい、動悸、発汗、口のかわき、胸やけ、息苦しさ、胸の圧迫感、熱感、目のつかれ、食べ物の味がしない、頻尿など多彩な症状がある。

 こういう症状があるので、患者は、自分では「うつ病」とは知らずに、内科、胃腸器科、などの医者の診察を求める。医者は、従来の血圧や、MRI、CTなどの検査をするだろう。だが、異常がない。それで、「うつ病」であるという診断を見落とす。とりあえず、痛みどめ、睡眠薬、整腸関係の薬物を処方するだろう。うつ病ならば、治らないので、半年、1年後に、やっと心療内科や精神科に行きなさいと言ってくれる医者か友人などの助言にめぐりあって、そこを受診して、やっと「うつ病」だと診断される。
 脳の血流のパターンによって、「うつ病」だという診断がつくのであれば、これまでは、診断できなかった内科医が「うつ病」患者を早期に発見できるというメリットがある。
 これは、いいことである。だが、忘れないでもらいたい。今、「うつ病」だという診断がついて、抗うつ薬による治療を受けても、
  • 1、薬物療法では治らない患者がいる
  • 2、薬物療法で治った患者は再発が多い
  • 3、薬物療法で治ると、なったわけ(心理的な意味、固定観念や認知のゆがみなど)と治ったわけがわからず、その後、ひかえめ、おどおど、消極的な生活になりがち。
    (認知行動療法で治ると、なったわけ、治るわけ、再発防止の固定観念、認知のゆがみの修正がされているので、意欲的、積極的に生きる人が多いようである)
 欧米では、認知行動療法、対人関係療法などの心理療法で、うつ病を治すのが第一の選択である。これなら、薬物はいらない。再発も少ない。
 それなのに、日本では、薬物療法中心の医療だ。薬物療法には、製薬業界という企業群が強力に推進する仕組みがある。だが、心理療法は、企業は参入しにくい。個々独立のカウンセラーが行う。臨床心理士会のようなグループがあっても、それは、企業ではないので、その結束は弱い。保険診療ではないので、カウンセリングをサービスとする企業があっても、料金が高いので、多くの顧客(患者)を期待できない。中小企業の社員、自営業の人たちでも、安い料金で心理療法のカウンセリングを受けられる仕組み(それを担う人たちが一定の報酬を得て生活していける、つまり、そこに若いカウンセラーが参入していく動機になるような)を作らなければ、薬づけの医療はなくならないのではないか。
 機械で、うつ病の診断をする研究が進んでいるのを知って、手放しでは、喜べない複雑な気持ちである。これで、うつ病患者の早期発見、早期治療開始となり、医者と製薬業界は増収になるだろうが、保険はいよいよ財政が厳しくなり、一度治っても、再発をおそれてびくびくして生活し、それでも再発が多い薬物療法。心の問題(いじめ、対人関係、対人恐怖、過食、パニック障害、コミュニケーション能力、など)でうつ病になるのに、薬物療法のみに頼るのはおかしい。長期的な観点から、国民にとって、何がいいのか、大きな目で対策を考えていく必要がある。そうでないと、日本の精神力、頭で国際的に競争していく力が衰えていく。薬物療法の医者や製薬業界の利益から対策を考えていると、30年、50年後に、とんでもない国になっているのではないか。薬づけの人、治ってもわけがわからずびくびく、おどおどして生きる人、再発して、ひきこもる人、自殺する人。
 一方で、うつ病の人を再生産する、いじめ、組織のエゴイズムなどは変わっていないーーーー。これは薬物療法がきかない。

コメント

トラックバック