うつ病には自殺念慮があることが多い2005年09月23日 11:18

 私どもは、心の病気の方のカウンセリングを行っている。うつ病、パニック障害の方が多いが、この病気には、「自殺念慮」という症状が起きることが多い。パニック障害には元来、その症状はないが、パニック障害が長引いているうちに、「うつ」が併発する。
 うつ病も病気であるから、インフォームド・コンセントが重要である。薬物療法の医者は、薬物療法のみについて、「抗うつ薬を服用すれば治ります。」といって、治療を始めるが、治ればいいが、患者(クライアント)の中には、治らない人がいる。治るかもしれないと思える期間は、3カ月だろうか、1年だろうか。それは重要なのである。身体の病気でさえも、治るという期待が大きく作用する。 薬物には「プラシーボ効果」があると言われる。確かな薬理効果がない物質(たとえば、食塩水)の投与や偽手術(開腹だけして、病巣をとりのぞかない偽手術)をしても、改善する患者が多いという。治験で行われているそうだ。
 だから、心理的なストレスで発症した「うつ病、自殺念慮」を持つ人に接する医者やカウンセラーの言葉によって、患者がその医者やカウンセラーの手腕、カウンセリング技法を「信じる」「期待」するということが、うつ病、自殺念慮を治すのに大きな効果を発揮する。心理療法、カウンセリング技法に、「プラシーボ効果」がある。信頼できないカウンセラーにかかる、うつ病の患者は治らない。
 6カ月たっても、薬物療法が効かない患者は、疑いはじめる。絶望を深める。一層、うつ病を悪化させるおそれがある。
 私どものところに来るかたは、薬物療法が効かないという人、他のカウンセリングも受けたが、治らないという方が多い。薬物療法は、他の記事で述べたように、その効果は限界が報告されているから、効かない人がいたり、再発したり、だから、薬物療法を受けていても、自殺する人がいるのは、避けられない。だが、他のカウンセリング、心理療法でも、治らないとはどういうことか。患者を信頼させることができないからである。
  • カウンセラーが、自分のカウンセリング能力に自信を持っていない。
  • だから、クライアントが来た時に、「あなたは、このカウンセリングを受けると、きっと治りますよ。」と言えない。
  • 認知行動療法は新しいカウンセリング技法であって、日本では普及しておらず、カウンセラーもこれを学んでいる人が少ない。
  • つまり、カウンセリング技法には、種々あって、うつ病、自殺念慮を治療できるという原理が含まれていないならば、そういうカウンセリング技法のみ習得しているカウンセラーは、うつ病、自殺念慮を持つ人に、積極的な助言ができない。つまり、話を聞くだけの態度になりやすい。
  • だから、カウンセリングの方針を説明できない。つまり、カウンセラーも、インフォームド・コンセントをしていない。
  • カウンセラーは、患者の話を聞くだけのカウンセリングが多い。そのために、患者が、1,2回で絶望して、カウンセリングを中断してしまう。
 こういう問題があるために、「自殺の減少の問題の中で、最終治療は、我々カウンセラーにまかせてほしい」とカウンセリング業界の人が言わないのだろうか。これまでの、現実の自殺防止のとりくみの中で、カウンセラーは、最初か途中の相談機関の位置づけとされ、最終治療は、医者の薬物療法になっているようだ。その薬物療法に限界があれば、心理療法者である「カウンセラー」がもっと重要な役割ができるはずなのに。厚生労働省は、カウンセラーにも、治療の役割を期待しているが。
 なお、私どもは、瞑想を付加した認知行動療法を用いているが、このカウンセリング技法も絶対ではないのは、もちろんである。患者によっては、限界があり、さらに、改良を加えていかなければいけない。ある治療法のみがよいと思う傲慢さが患者を苦しめる。だが、認知行動療法とは、いわば、成長するカウンセリング技法である。認知や行動を修正する技法をどんどん取り込める。固定していない。この療法の長所は、話を聞くだけ、問題を分析するだけ(元来、そういうカウンセリング技法には治す技法も含まれているのだろうが、学ぶカウンセラーが、そこだけにとどまる傾向がある、それはカウンセリング技法の弱点であろう。自殺が切迫しているうつ病の治療には、弱点となる)ではなく、「修正」の行動を積極的に助言する、そのための宿題を与える、ところがあることであろう。カウンセラーの手腕のまずさをクライアントが補ってくれることもある。助言した以上に、行動してくれることがある。共同作業である。
 薬物療法も、SSRI、SNRIなどが最善ではなくて、新しい薬が開発されていくだろう。うつ病、自殺念慮の最終治療は何でも医者にまわすという対策は再考しなければいけないという限界は知って、自殺防止対策をとっていくことが必要だろう。

(関連記事)

(次のことは、文献など証拠をご紹介したい)
  • (次回)カウンセリングも問題
  • (その次)カウンセラーも自信がない
  • (その次)プラシーボ効果
  • 自殺防止のとりくみ=カウンセラーは相談機関、治療は医者

医者は自殺を防止できない2005年09月21日 17:43

うつ病の治療は欧米では認知療法、対人関係療法

水島広子氏の国会質問 (日本で認知療法、対人関係療法が遅れている問題を指摘)
 国会議員の水島広子氏が国会での質問で、日本の精神医療の問題点(薬物療法への偏り、認知療法、対人関係療法など心理療法の遅れ、心理療法は公的保険の診療報酬が安いから医者が行わない問題点など)を指摘しておられます。次はその一部です。
     「そういったときの精神療法でございますけれども、薬と違って、飲んだらすぐに副作用が出るとか、そういうことが客観的にわからないために、効いているんだか効いていないんだかわからない。 効かない場合にも、今までは、本人が悪いというふうに言われていたような流れが日本にはございまして、諸外国ではそうではなくて、きちんとしたやり方に基づいて行えばこういう効果がこのくらいの期間で出るというようなことも、きちんとデータがとられているわけでございますので、ぜひその辺、大臣もこれから積極的にお勉強いただきたいと思います。  さて、精神療法の有効性についてのエビデンスは、特に認知療法あるいは認知行動療法や対人関係療法については、欧米で広くデータが得られ、アメリカ精神医学会のうつ病や摂食障害のガイドラインでも、実証的研究を踏まえながら採用されております。  昨年十月の厚生委員会で、私が認知療法と対人関係療法について質問しましたところ、厚生省の方の答弁は、「人間関係療法というふうなものはまだ確立された療法ではないというふうに私どもお聞きしているわけでございます。」というようなもので、私は大変驚いたわけでございますが、その後、精神療法の効果についての検討状況を国際的な視野でお勉強していただけましたでしょうか。」
 この質問の後にも、認知療法などの導入が遅れて、日本では、認知療法、対人関係療法のできる人が少ない。
 うつ病の薬物療法は再発、効かない人がいる、副作用がある、などの限界があるので、欧米では、認知療法や対人関係療法が、うつ病の治療に貢献している。しかし、日本では、自殺防止の最終治療に、精神科医にまわす。だが、医者は忙しすぎる。いまの診療報酬制度では、医者は、認知療法や対人関係療法を学び、これで治療しようとは思わないだろう。
 社会の仕組みで、予防も重要である。そちらは、県、種々の組織が対策を考え始めた。その効果が数年後には出てくるだろう。しかし、どうしても、うつ病になってしまう人がいる。なってしまった人を治す治療法が医者による薬物療法では問題が多いのだから、心理療法ができる人を増やす必要がある。なぜ、臨床心理士などのカウンセラーがそれを学ばなかったのか、カウンセラー業界も、欧米よりも十年も遅れたのである。
 今、活躍中のカウンセラーの方たちは、学生時代に、日本ではまだなかったため認知療法を習得しなかった。さらに、企業や学校などとの契約があって、忙しいのだろう。新しい心理療法を学ぶ時間がないのだろう。今後、心理系の大学で育成される新しいカウンセラーには、うつ病に効果のある新しい心理療法を学んでほしい。
 そのほかに、医者以外の人たちも、認知療法、対人関係療法を学んで、その組織での、うつ病の予防、治療にとりくんでほしい。人に接することが好きな人は、習得できる。

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抗うつ薬は完治させない2005年09月20日 09:02

 「医者は自殺を防止できない」という過激なタイトルで、日本の自殺問題深刻さを考えてみたい。

 地方の場合、自殺防止運動には、精神科医が重要な役割をになっている。だが、医者は、薬物療法を中心とした治療を行うので、それでは、自殺防止の恒久策とはならないということがわかってきた。
 薬物療法は、完治する療法ではなくて、対症療法にすぎない。抗うつ薬の薬理からも、それが裏づけられる。

薬物療法で治ったつもりでも、セロトニン神経は弱いまま

 うつ病の治療の中心は抗うつ薬である。中でも最近は、SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)やSNRI(セロトニン、ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)である。うつ病には、自殺念慮というやっかいな症状があるので、うつ病が完治しないと、自殺の危険性が常に伴う。抗うつ薬の効き方が、セロトニンやノルアドレナリンの「再取り込み阻害」という薬理作用から、完治のために作用するような薬ではないことろに問題がある。
 東邦大学医学部教授の有田秀穂氏は、次のようにいう。
     「SSRIの抑制作用により、余ったセロトニンはリサイクルに回らず、いつまでもセロトニン神経末端と標的神経とのあいだに、すなわちシナプス間隙に留まります。これはセロトニン神経が弱り、セロトニン分泌が悪いときには好都合です。十分な分泌量に達しないセロトニンを、見かけ上は多く分泌されたように、改善してくれるのです。薬を使い続ける限りは、脳内のセロトニン濃度を高く維持できます。ただし、セロトニン神経が発生するインパルス頻度は低いままであること、セロトニンの基礎分泌は低いままであること、を忘れないでください。
     重要なのは、弱ったセロトニン神経を根本からきたえ直す必要があるということ。そのためには、セロトニン神経がリズム運動で活性化されることをうまく活用すればよいのです。」(1)
 薬物療法で軽くしても、心理的ストレスが強くありつづければ(たとえば、過労、対人関係の悪化、同居しても家庭内で孤独、ライフイベントによる新しい役割、いじめられている、がんになっている)、うつ病は完治しにくい。休養して、一度、軽くなっても、 復帰した時、またストレスを受ければ再発する。セロトニン神経の本体の活性が低いままであるせいだろう。このような問題があるから、薬物療法だけでは、うつ病が完治せず、自殺がなくならないのだろう。

 リズム運動だけでは、重いうつ病者の臨床的治療には十分でないので、認知療法を併用するのが効果的である。なぜなら、うつ病になった人には、ある種の固定観念や認知のゆがみがあるので、それをカウンセリングで助言すると、完治が早くて、再発しにくい。脳内の神経伝達物質の点からいえば、うつ病は、セロトニン神経だけの問題ではなさそうであるから。抗うつ薬の服用を始めても、セロトニン神経への作用は開始しているのに、自殺念慮はすぐには、なくならないことから、「生きたい」という意欲は、セロトニン神経に調節されているが、別の脳内の器官の障害によるかもしれない。「自殺したい」というのは、認知のゆがみである。そこに働きかける「認知療法」を併用するのが安全であると思う。欧米では、抗うつ薬を使わずに、認知療法や対人関係療法だけで、うつ病を治すのも広く普及しているのであるから、その方向を検討すべきである。
 自殺防止の対策として、うつ病の人がみつかったら、医者を紹介するという対策が東北地方を中心としたモデルになっていて、本やマスコミで紹介されるが、地方には、認知療法ができるカウンセラーがいないという特殊事情であることを考えて、他の県や大都市などは、カウンセラー(および、同様のカウンセリングのできる保健師、看護師など)が介入する治療体勢を構築すのがよいのではないか。東北各県も、その対策も加えたらいいだろう。
 医者は、心理療法を知らず、薬物療法絶対の治療をする人が多い。その薬物療法に弊害や限界が報告されてきた。うつ病を完治させる、という問題の根本対策をとらないと、自殺の減少は、あるレベルで限界に達する。
    (注)
    • (1)有田秀穂氏(東邦大学教授)「セロトニン欠乏脳」NHK出版、119頁。
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