「死ぬな! 自殺3万人時代に」=連載終わり・社説2005年06月14日 07:38

「死ぬな! 自殺3万人時代に」=連載終わり・社説

 朝日新聞の連載記事「死ぬな! 自殺3万人時代に」は、10日に終わり、11日、社説でまとめられた。
 この中で、自殺防止のために、地域住民や県などが取り組んでいる例も簡単に紹介された。
  • 1、新潟県松之山町(現在、十日町市)
    これは、5回目に紹介された。
  • 2.青森県、秋田県は相談窓口などの一覧表を全戸に配っている。
  • 3.個人で自殺防止にかかわっているボランティア  
    • (3-A)「いのちの電話」は、全国で7千人のボランティアの人たちが、電話相談を受けている。
    • (3-B)秋田市のボランティア。自己破産した経験のある人が、中小企業の経営者の相談を受けている。
    • (3-C)福井県の東尋坊は飛び込み自殺が多いが、そこで、元警察副署長が相談所を開いている。  
 以上のような取り組みがあるものの、対策の遅れを指摘している。
  • 1.「町のイメージが悪くなる」として対策を渋る自治体もある。
  • 2.県が「自殺予防」とはっきりうたって対策を立てていた県は7つしかなかった。
 最後に、自殺を引き留めることの大切さを訴える。
     「秋田県で先月末、自殺サイトで知り合い、練炭を買いにいく若い男女が警察にみつかった。高校1年の女性は「自殺できずに残念。でも失敗に終ってほっとした。不思議な気持ちです」と話した。」
 以上のような対策と対策の遅れを指摘して、次の点が社説の最も重要な指摘のように思う。
     「「うつ」への対策が柱だ」。自殺しようとする人は様々な事情を抱えているが、その多くは、うつ病やうつ状態に陥っている。相談や治療をしやすい態勢をつくることで、自殺を減らそうというのだ。
     方向は間違ってはいない。しかし、掛け声だけで、なかなか実行できていないのが現実である。政府は自殺の原因や背景をもっと調べるとともに、すでに取り組んでいる自治体や民間の活動を助け、広げることに力を入れた方がいい。」
 以上が、社説の要旨である。この最後に引用した部分が、重要であると思う。自殺は、背景に「うつ病」がある。その背景には、借金、リストラ、過労、がんや他の難病から起きる心理的な苦しみ(それからも「うつ病」になる)、介護疲れ、いじめ、孤独、対人恐怖・パニック障害などの心の病気が治らない、内科医のうつ病の診断見落とし、薬物療法一辺倒のうつ病治療、カウンセラーのうつ病カウンセリングのノウハウ不足、等々、種々の背景がある。
 こういう種々の背景を推測してみると、うつ病、自殺防止の対策は、全く不十分である。連載で紹介された対策例でも、根本的な対策につながっていないものも多い。「点」と「線」で言おう。自殺しようとしている人を「引き留める」のは重要だ。だが、その「点」で、自殺を留めても、「うつ病」「うつ」状態が治癒したわけではない。その「点」から「線」へつなげていかなければならない。そうでないと、その人は、しばらく生き延びるが「うつ病」が治らないと、別のところに行って、自殺する。自殺未遂は繰り返されるのだ。「点」だけの対策ではだめだ。
 自殺をひきとめたら、その次に、根本対策を行う組織、ボランティアのもとに連絡を取り、フォローする仕組みを作る必要がある。
 その根本対策をすすめるところが、必ずしも、うまくいっていないので、その質の改善が、また、重要な課題である。これも、早く改善対策をとってもらいたい。次のような点である。
  • 内科医、かかりつけ医などが、うつ病を見落とすので、うつ病の治療開始が遅れる。
  • 薬物療法で治らない「うつ病」患者がいる。そのような時に、一定の条件になったら、薬物療法を中止し、心理療法、カウンセリングなどをすすめるようなガイドラインがない。長期間、薬づけの状態となる。
  • 臨床心理士などのカウンセリングのノウハウが不足している。うつ病、自殺問題のカウンセリング手法は、欧米では、認知行動療法、対人関係療法、ストレス緩和プロウラム(注意集中型瞑想)などが効果をあげているのに、日本では、これをできるカウンセラーが少ない。そのために、カウンセラーのカウンセリングを受けても、「うつ病」が治らないことも、多いであろう。
 このようなところは「治療機関」である。自殺防止には、種々の役割をはたす機関がある。
  • (A)「水際で引き留める機関」=いのちの電話、東尋坊、などか。その個人に、長くは接触しない。
  • (B)「相談機関」=保健所、産業カウンセラーなど数多くある。他を紹介する。
  • (C)「治療機関」=薬物療法の医者と、心理療法のカウンセラー。うつ病を治すために、長期間の接触を持つ。病理の治療ノウハウだけでも、不十分な「うつ病」がある。(D)との連携が重要
  • (D)「うつ病の病理以外の問題の相談処理機関」=借金、自死遺児、介護、いじめ・不登校問題のカウンセラー、職場におけるストレス予防支援、がん患者会、パニック障害患者会、難病家族の会、コミュニケーションスキル向上支援、児童虐待、育児、家庭内暴力、など種々の問題を支援する組織。
 現在は、(B)だけが多くて、(C)(D)がうまく機能していない。あっても、ノウハウが不十分である。これら4つの組織の連携をはかることと、その質の向上が今後の対策に織り込まれるべきである。特に、(C)(D)が、重要なかぎである。これを充実させていく時に、注意したいことがある。(C)(D)が重要であるが、医者、カウンセラー、種々の相談機関の職員などでも、うつ病、自殺問題に関心がない人も多い。
  • 身体、臓器の病気の診断・治療に精一杯で、うつ病の研究、治療などしている余裕がないという医者が多いだろう。
  • カウンセラーでも、学校、会社などと契約関係にあるカウンセラーは、その契約業務を遂行することに忙殺される。一般の、うつ病、自殺には関心がなくなる。
  • カウンセリングの組織のスタッフでも、うつ病、自殺問題のカウンセリングを行うのは好きではない人も多い。うつ病、自殺問題のカウンセリングには、認知行動療法や対人関係療法などのノウハウと、患者とコミュニケーションをとっていく人格的な資質が必要であること、そして、何よりも、うつ病、自殺問題を改善したいという強い意欲を持つことが要件となる。(C)が重要であるにもかかわらず、人材が限られる。
 こういう事情を考えると、私は、各県に一つ、うつ病、自殺問題の専門の「治療機関」を設立して、この問題(相談ではなく「治療」を実行する)に意欲がありノウハウのある人(医師、カウンセラー、県市の公務員、ボランティア)だけを集めて、この問題を治療していくことを提案したい。こういうところがあれば、かかりつけ医やカウンセラーにかかっても、うつ病が治らないという人を、専門的に治療、カウンセリングできるのではないか。そして、(D)の支援が必要であると判断される患者は、そういう機関とも連携していけばいい。繰り返すが、今、県にそういう機関があるといっても、別に作るべきであろう。これまでは十分な効果があがっていない。「治療そのこと」に強い意欲のある人だけがいるわけではない。7年連続で、3万人以上の自殺者がいる。他の機関を紹介するという「相談機関」ではなくて、根本的な対策をずばり行う「自己完結型の治療機関」の質の向上が必要である。多くはいらない。この問題に意欲があって、治療・カウンセリングのノウハウがある人が幾人かいる。そういう機関は、各県に、一つあれば、自殺はずいぶん減少するだろう。