孤独・対人関係療法12005年06月01日 07:42

 芹沢俊介氏のコラム「芹沢俊介の若者点描」を見た(5月28日、朝日新聞)。 「集団自殺」(芹沢氏は「集合自殺」とよぶ)について語る。「 」は氏の言葉。
なぜ、自殺するのかについてーーー。
 「この世に居場所がないと深く感受している孤独な魂」
 「この孤独には極度の人間不信が裏打ちされている。」

これを防ぐためにーーーー。
  • 「思春期までに子どもたちのなすべき課題は「隣る人」を内部に作ることだ、おとなはこの作業を助けなくてはならない、こういったのは、埼玉で光の子どもの家という養護施設を運営する友人である。」
  • 「隣る人とは、どんなことがあっても決して自分とのきずなが断ち切られることなどない人のことだ。言い換えれば絶対の信頼の対象である。」
  • 「このような隣る人が内部に存在するとき、人は孤独ではない。」
  • 「集合自殺という手段をとる若者たちの姿に、こうした隣る人の不在、言い換えればあからさまな孤独と人間不信を見せつけられた思いがするのである。」
 (「隣る人」=耳慣れない語であるが「となるひと」と読む=BLOG著者注)

 孤独と人間不信から、自殺に至る。このことを少し考え続けてみたい。
うつ病をカウンセリングして治す「対人関係療法」でも、孤独からうつ病になるとしている。この記事の最後に、対人関係療法のさわりを掲載しておく。

 孤独と人間不信から、うつ病、自殺となるという。多くの人は、親子、夫婦というきづながあって、孤独をまぬかれる。しかし、形式的関係それだけでは、孤独をまぬかれない。今、親子、夫婦という形式的なきづながあっても、不和、虐待がおきている。実際、うつ病になった人の中には、親子、夫婦の不和によるものがある。その関係がゆらぐ時に、他に信頼し相談する人がいない。そこでは、二重の精神的な孤独がある。まず、夫婦が互いに、信頼関係にある時、孤独ではない。これがゆらぐ時、まだ、親か子が生存していれば、それが信頼関係にあれば、孤独ではない。子供や独身の人は、絶対的に信頼できる人は親である。そこでは、親子間で不和であれば、孤独となる。
 今、親子、夫婦間で絶対の信頼が失われて(精神的)孤独と人間不信となり、うつ病、自殺に至ることが多い。(もちろん、親子、夫婦間で信頼関係があっても、自殺する人も多い(失業、病苦など))
 まず、親子、夫婦は、絶対的に信頼できる関係を維持すべきである。これがゆらいでいる人は、そのことだけでも、うつ病、自殺の因になるが、しばらく、順調であっても、何かの出来事があった時に、うつ病、自殺に至る割合が高くなる。困難な出来事が起きた時、信頼し相談できるはずの親子、夫婦に相談できず煩悶して、うつ病、自殺となる。
 親子、夫婦で不和、長い間、会っていない、言葉をかわしていない、というのはあぶない。関係改善をはかるべきだ。対人関係療法は、改善をはかる方法を助言する。

(「孤独」については、もう少し考えてみたい。哲学者、中島義道氏に「孤独について」(生きるのが困難な人々へ)という著書がある。)

対人関係療法(1)

 対人関係療法は、当初はうつ病に対する短期心理療法として考案された。
うつ病は、種々の出来事で、心理的なストレスによって発病する。
 (1)深い悲しみ、(2)自分の期待と異なる役割につくことで生じる葛藤(たとえば、いつも家にいる母親になることを期待して結婚したのに、一家の主要な稼ぎ手としての役割も果たさなければならないことがわかったとき)、(3)社会的役割の転換(第一線で働いていた人が定年退職するなど)、(4)他者とのコミュニケーションがうまく取れないといった問題を重点的に扱う。
 カウンセラーは、クライアント(うつ病の来談者)に対して、対人関係上の心理的な助言をして、改善を図るように指導する。

現在に焦点をあてる

 対人関係療法では、クライアントが現在、どうすればいいかに焦点をあてる。たとえ、生育歴、過去の家庭環境、過去の事件に原因があっても、現在の心理をよく観察して、その対処法を会得し、症状を改善していく。
  • 「ただ人間関係のトラブルを解決しろ、ストレスを減らせというだけでなく、どうすればそれが実行できるのか、そのノウハウをできるだけ具体的に考えるのが、この療法の強みなのです。」(A196)
  • 「対人関係療法は、「重要な他者」との「現在の」関係に焦点を当てて治療するものです。また、単に焦点を当てるのではなく、そこで問題になっていることを四つのテーマのうちの一つに分類し、それぞれの戦略に従って治療していく、というふうにある程度マニュアル化されています。」(B17頁)

他人との関わり合い、特に「重要な他者」に焦点をあてる

 人間関係を密接度に応じて、三つに分類し、「重要な他者」に治療の焦点を当てる。あるいは、3つのグループ別に、治療の方針を変える。
  •  「他人との関わり合いに焦点を当て、その問題点を見つめ直していくことで、つらい気持ちを楽にしていく」という治療法があります。それが、この章で紹介する「対人関係療法」と呼ばれるものです。」(A143)

     「対人関係療法は、「重要な他者」との「現在の」関係に焦点を当てて治療するものです。また、単に焦点を当てるのではなく、そこで問題になっていることを四つのテーマのうちの一つに分類し、それぞれの戦略に従って治療していく、というふうにある程度マニュアル化されています。」(B17頁)

 3つのグループは、次のとおりである。ストレスやつらさを抱える背景には、この第一のグループである「大切な人」との関係がうまくいっていないことが多々あります(A146頁)。
  • 第一グループ(「重要な他者」)
    もっとも頼りになる大切な存在。 配偶者・恋人・親・親友など。
  • 第二グループ
    少し距離を置いて付き合っている人。友人・親戚など。
  • 第三グループ
    職業上の人間関係、隣人、など

4つの領域からアプローチ

 対人関係療法では、人が陥りやすく、かつ、そこから取り組むと解決がスムーズになりやすいとわかっている、主要な4つの領域から、アプローチしようとする(A19頁,B148頁)。
  • (1)喪失プロセスの失敗
  • (2)役割期待をめぐる不和(相手とのズレに悩むとき)
  • (3)役割変化の不適応
  • (4)対人関係の欠如(孤立、孤独)
  • (1) 喪失プロセスの失敗
    大切な人を失ったとき、悲哀のプロセスが十分にできないとき。 大切な人との死別、離別は誰でもつらいものであり、否認、絶望、脱愛着のプロセスをとるが、このプロセスの処理が上手にできないと、うつ病になることがある。
    • 否認(そのことが起きた時に、「信じられない」「信じたくない」という気持ち)
    • 絶望(現実のこととして事実に直面させられて「もう生きていけない」「何の希望もない」という気持ちになる)
    • 脱愛着(十分に悲しみ切ることができると、絶望の心に、ほかのことを考える余裕が出てきて、悲しみを克服する。)

  • (2)役割期待をめぐる不和
    相手との間に、意見、期待、価値観のズレがあって、それが原因となって悩む場合。

  • (3) 役割変化の不適応
    人生上には、種々の出来事があり、環境の変化、役割の変化があるが、うまく適応できないとき。

  • (4)対人関係の欠如(孤独)
    誰ともうまく対人関係を築けず、孤立、孤独。
 うつ病になるのは、上記のような背景があるので、薬物療法を行っても、上記の環境や条件などが変わらない限り、心理的にやすまることが少ないので、完治しにくい。一度、軽くなっても、再び、上記のような問題領域が持続する中に戻れば、再発しやすい。  そこで、根本原因になっている対人関係を見直して根本治癒をめざそうとするのが「対人関係療法」や「認知行動療法」である。日本では、これを行うカウンセラーが少ない。うつ病は、これまで、薬物療法中心主義である。

(参考書)
  • (A)「薬を使わずに「うつ」を治す本」最上悠、PHP研究所。
  • (B)「自分でできる対人関係療法」水島広子、創元社。